考古学界のサムライ
昨年秋頃、『Japanist』に連載していただいている上甲晃氏(元松下政経塾塾頭)から、「ぜひとも取材していただきたい方がいる。なんなら、自分で取材してもいい」と何度か熱いコールをいただいた。
通常、自薦はほとんどノー、他薦も要注意と思っている。
ところが、上甲氏である。つまらない人を推薦するはずはない。
日本のサムライがここにもいると思った。
大村幸弘(おおむら・さちひろと読む)。トルコで遺跡の発掘・研究をしている考古学者でアナトリア考古学研究所の所長でもある。
若い頃から考古学を志し、奇跡ともいえる点が線になって、トルコに移った。以来約30年、カマン・カレホユック、ビュクリュカレ、ヤッスホユックの3つの現場で遺跡を発掘し続けている。
なぜ、トルコか?
トルコといえば、ヒッタイト帝国に代表されるように、古代文明が興った地域である。オスマン帝国もそうだが、覇権を握った歴史も長い。
そういった場所の遺跡を丹念に調べれば、人類の興亡がわかるという。
なぜか?
日本のように水が豊富な国は住み分けをすればいいが、中東などの河川があまりない地域では土地の奪い合いになる。住める場所が限られてしまうからだ。
かくして略奪・虐殺の歴史が繰り広げられる。その跡が地中に遺されているというわけだ。
大村氏いわく、「どんなに隆盛を極めた民族も、やがて滅ぼされる」という。大きな火災の跡が残っているが、それが滅ぼされた痕跡だ。なぜ、そうなるかといえば、隆盛の要因(鉄や小麦の生産技術)はどんなにガードしても、やがて流出し、力の均衡が崩れるというのだ。そういうことから、「純粋性が失われると劣化する」と警鐘を鳴らす。
このことは現代社会にもあてはまる。金科玉条のごとく「グローバル化」というが、日本のような「特殊な国」がグローバル化を図れば、純粋性が失われていくのは明々白々。まして移民政策などもってのほか、というわけだ。
大村氏は人類1万年の年表づくりに取り組んでいるが、それは自身が存命のうちに叶うことはない。なんとも長いスパンで大仕事に取り組んでいるのである。それだけでも特筆に値する。
さらに、世界史の一部を書きたいという。現在の世界史は西洋人から見た歴史であり、当然のことながら、西洋にとって都合良く書かれている。真実かどうか、はなはだアヤシイ。それを大村氏は確かな研究のもと、公正な世界史を記したいというのだ。
そのため、「永遠に在野でいたい」とも言う。なにかに所属すれば、保身に走る。それでは大事業は成就できないと。
なんとも胸がスカッとする偉丈夫である。
詳しくは次号の『Japanist』にて。12ページの記事でお届けする。
(150301 第546回 写真上は大村幸弘氏、下は発掘現場)