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紺碧の将

(こんな食材)あったよね

2015.09.14

アルケッチャーノ外観 鶴岡市にあるアルケッチャーノに行った。初めて行ったのは5、6年くらい前だろうか。あの時のインパクトが忘れられない。じつにパワーのある料理だと思った。色のついたソースで白い皿に絵を描いている料理人なんか、子供だましに思えた。本物の食材を、魂こめて料理すれば、こういう味になるんだと教えてくれた。ちなみに、アルケッチャーノという名前はイタリア語だとばかり思っていたが、「(こんな食材)あったよね」という意味の土地の方言である。

 この店の周りには何もない。こう書くのは失礼かもしれないが、ほんとうに何もないのだ。その分、良質の野菜や魚介類が豊富にある。
 その「何もない」ところに拠点を構えながら、遠来の客が絶えない。しかも、ランチとディナーを同じ価格で提供しているというのがスゴイ。ふつうは内容が同じでも、かなり差をつける。そうしないと競争が激しいお昼の時間帯はガラガラになってしまうからだろうし、安いランチで店のファンをつくり、夕食に誘導するという思惑もあるのだろう。
 しかし、アルケッチャーノはちがう。昼も夜もコース料理の価格は同じ。3,800円、7,700円、12,000円、15,000円(いずれも税別)で、ズドン、以上、という感じだ。
 今回、いただいたのは7,700円のコース。すべて地元産の食材を使い、最後のドリンクを除いて全11品。
ヒラマサと月の雫 スターターは、やはりアレが出た。地元の海で採れた塩を使ったシンプルな料理だ。「庄内浜のヒラマサと月の雫の塩」。満月の夜に採れた塩を大胆にまぶしたものだ(写真)。いま、塩は嫌われ者というか、健康を害する悪者になっているが、勘違いだと思う。実際は塩分不足だ。本物の塩が不足し、精製された塩を摂りすぎている。それが実態だろう。
 海洋塩に着目したのは慧眼だし、さらに満月の夜に採れた塩というのがいい。奥田政行シェフの料理哲学が如実に伝わってくる。
 他に「鯛の燻製とタイのミルフィーユ」「稚アユとだだ茶豆のリゾット」「マグロのパン粉焼きとトマト」「タイのカマのアクアパッツァ」「うさぎとごぼうのラグー」などが続いた。
 奥田シェフの功績は大きい。たった一軒のイタリアンが庄内を変えたと言っても過言ではない。地方創生のいい事例ともなる。
 しかし、残念ながら、初めて食べた時のようなインパクトはなかった。もちろん、悪くはない。そのまま東京に持ってきても、それなりの評価を受けるだろう。しかし、それ止まりだ。突き抜けてはいない。
 第一の原因は、奥田さんが厨房にいなかったことだろう。彼は講演やらで引っ張りだこで、店にいない日が多いとのこと。
 初めて訪れたとき、彼はその日に調理する食材をテーブルまで持ってきて、嬉々としてその特徴を語っていた。その日のコースの物語を語って聞かせてくれた。少年のように目をキラキラと輝かせ、これから自分が料理する内容について語った。その時に聞いた言葉の端々をナフキンに書き付け、今でも持っているくらいだ。
 彼が各地に出向いて語ることのメリットはたくさんあるだろう。彼にはずっと厨房にいてほしいというのは、ある意味、客のわがままだ。
 でもなあ……。どっちがいいのだろう。これは正解のないテーマである。
(150914 第579回 写真上はアルケッチャーノ外観、下は内浜のヒラマサと月の雫の塩)

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