才媛のカントリーライフ
ヒポクラティック・サナトリウムの帰り、修善寺に寄った。『Japanist』27号の「日ノ本の清談」で私と対談したお相手・新井幸江さんのご自宅に伺うためだ。
新井さんは香りのコーディネーターという、あまり聞き慣れない仕事をされている。全国でもひとケタ程度しかいないというのだから、かなりニッチと言っていいだろう。ところが、記事のなかにも書いてあるが、6年前、新井さんはバラ園で香料の話をしている時、早朝のバラの香りの話をしているはずがバラの原料が入ったボトルをイメージしてしまったという。そのことにショックを受けた。師の教えは「ほんとうの香りは自然が教えてくれる」だったからだ。
一念発起し、生活の拠点を修善寺へ移した。
300坪の土地に自宅を建て、敷地の大半は農園にしようと思った。とはいえ、草が生い茂った土地である。おいそれと農園になるわけではない。約2年間、ご主人と一緒に土地を耕したという。
今は朝食まで畑仕事をし、家事などをこなした後、香りの仕事に向かう。愛犬ペリエも〝お手伝い〟をする。
「お日様といっしょに生活しているような感じです」とおっしゃる。
作っている品目は、ハーブや香料植物も含め、なんと100種類以上!
農薬や化学肥料は使わない。有機肥料のみだ。その分、手間はかかる。
静岡という温暖な土地柄もあり、ミカンやレモンなどもたわわになっている。畑の風景が南国の空気を醸している。
ジャムや漬け物なども自前だ。できた物は知人友人にお裾分けする。私もたびたびお裾分けをしていただいているが、その瑞々しい美味しさと言ったら! ジャムなどは、やたら化学的に甘い市販品と比べものにならない。
当日、畑の野菜を摘んで、ミネストローネとサラダを作っていただいた。もちろん、市中に出回っているケミカルなミネストローネとは根本的に異なる味だ。
新井さんは週の前半、都内のホテルに泊まり、仕事をされている。町田の武相荘に住み、いざとなれば都心で重要な仕事をしていた白州次郎を彷彿とさせる見事なカントリーライフだ。
「現代人はていねいな暮らしを忘れている」
新井さんはそうおっしゃる。便利、効率性は生活全般に及び、もはや「便利がお得」という刷り込みまでされてしまった現代の日本人。これでは病気が増えるのも当然だ。
新井さんのライフスタイルには、本質が詰まっている。そのエッセンスを伊豆の帰りに体験させていただき、心身ともにデトックスをして自宅に戻ることができた。
12月は畑で採れたダイコンを使って、「マイたくわん」を漬けていただけるという。また楽しみが増えた。
(151124 第596回 写真上は新井さんの農園。中は愛犬ペリエもお手伝い。下はミネストローネを調理中)