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紺碧の将

佐渡の光

2016.06.01

能楽堂「旨い純米酒を求めて」と題し、全国の酒蔵を訪ね歩いてきたが、次号で最終回となる。29軒目に選んだのは、新潟県佐渡市にある加藤酒造店。

 じつは、佐渡を訪れるのは生まれて初めてのことだ。佐渡と聞いて、思い浮かぶのはトキや金山ていど。あとは世阿弥や日蓮が島流しにされたところというていどの認識しかなかった。
 日本には6,852の島があるが、択捉島、国後島、沖縄本島を除けば、佐渡島が最も広い面積を有している。しかし、他の島と同様、過疎化が進み、かつて12万人くらいあった人口も5万8000人ほどになってしまった。
 海の幸、山の幸、畑の幸が豊富にあるため、ほぼ自給自足できる島だが、やはり仕事がなければ人の流出は止まらない。ある意味、住民の連帯感が強く、食材の宝庫であるゆえに島外への働きかけに熱心でなかったという見方もできる。
 観光の見所は少なくない。いや、なにもないということも観光の名所になりえる。今回泊まった宿は、窓を開けると一面田園だった。秋は黄金色の稲穂が風になびき、きらきら輝くというが、目に浮かぶようだった。
宿根木 吉永小百合のポスターで有名な「宿根木」」もユニークだ。昔ながらの民家が並ぶ一帯だが、佐渡に暮らす人びとの生活の知恵を随所に見ることができる。海からの強風など自然の脅威への対処、卓越した大工技術、エコな生活スタイル、そして、そこに住む人たちの紐帯……。みな、現代人が失ったものばかりだ。世界で初めて楕円形の世界地図を作成した柴田収蔵という人物のことを初めて知ったが、彼は宿根木の生まれだ。
 世阿弥が流されたというだけあって、あちこちに立派な能舞台がある。私たち一行を案内してくれた篠笛奏者の狩野泰一さんが右上写真の能舞台に座って、篠笛を何曲か披露してくれた。ホトトギスの声に混じって、なんともいえない感懐をもたらしてくれた。
 地方創生と言われて久しいが、成果が出ている事例はきわめて少ない。しかし、どんなものでもそうだが、打開策はあるはず。いいものを掘り起こし、島外にアピールできれば、脚光を浴びる日がやってくるのも夢ではない。
 事実、一時は絶滅したトキを島ぐるみで保護した結果、今では200羽以上が棲息しているという。目の前で飛ぶトキを見たが、彼らのおかげで佐渡の田んぼは汚染度が低いとも言える(農薬半減を義務づけられているため)。
 影があれば、光がある。その逆もまたしかりだ。
(160601 第640回 写真上は宿根木の三角家、下は佐渡大膳神社能舞台)

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