播隆上人の偉業
山を下ってくる時、思いがけないものに出会った。右の播隆上人像である。播隆上人の名は新田次郎の『槍ヶ岳開山』で知った。強烈な残像がいまなお私の脳裏に刻まれている。
播隆上人は、天明2(1782)年、富山県に生まれる。江戸時代後半のその当時、未踏の地だった槍ヶ岳登頂に挑み、何度も失敗したあと、ついに登頂を果たした。登山道が整備されている現在でも踏破するのが容易でない槍ヶ岳に、草鞋で登ってしまったのだ。道具も何もなく。頼れるのは、地元の人の肩に足をかけるくらい。まさに修験の極みである。
槍ヶ岳開山の前には笠ヶ岳の登山道を開いたとも記されている。また、日本最古の文献、『迦多賀獄再興記』を著したともされている。
今私たちが安全に山に登れるのは、播隆上人など先人たちのおかげである。それでも毎年何十人もの人が命を落としているが、安全に登れることに変わりはない。登山道に限らず、ありとあらゆることが、先人たちの偉業の上に成り立っている。だから、山を歩くことは、感謝の念をひたすら放つ行脚ともなる。
ところで、新田次郎の『槍ヶ岳開山』で、播隆は農民一揆に加担し、妻を殺してしまうというエピソードが印象的だが、それは事実ではないとあるネットの記事で知った。史実をベースにした小説であっても、それくらいの〝修正〟は許されるということか。
※悩めるニンゲンたちに、名ネコ・うーにゃん先生が禅の手ほどきをする「うーにゃん先生流マインドフルネス」連載中。 第26話は「道具に振り回されない生き方」。
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(180818 第835回 写真は播隆上人像)