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紺碧の将

評価定めがたし、織田信長

2009.12.22

 今年、『火天の城』という映画を観た。安土城築城をテーマにした作品だ。ひとことで言えば、とても良かった。大工の棟梁役をやった西田敏行の演技に惚れた。すごい俳優だ。

 かなり以前から安土城趾へ行ってみたいと思っていたが、その映画を観てからますますその願いが強くなった。

 願えば叶う。今秋、織田信長が天下に号令をかけようとして築いた、ひと山丸ごと城! という奇想天外な城跡へついに行ったのである。

 

 織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の3人を戦国武将の3傑ということに異論のある人はいないだろう。それぞれに大きな役割を果たし、それぞれの個性に合った人生の幕引きをした。

 それぞれ功罪が錯綜するものの、ありていに言えば、私は秀吉はあまり好きではない。藤吉郎の頃はそれなりに魅力があったが、地位が上がるにつれて下品になっていった。最後は醜悪そのものだった。

 一方、徳川家康に対しては絶大な評価をしている。子どもの頃は「司馬史観」に影響され、家康は好きではなかった。今でもそうだが、世の中のあちこちに家康を評価しない空気が漂っている。例えば、NHKの大河ドラマ『天地人』の家康像は悪意に満ちていた。いつまでたってもNHKの歴史番組は滑稽なほど愚かだ。昨年だったか、江藤新平をテーマにした番組を見たが、江藤が聖人君子風に描かれていて驚いた。一方、江藤を裁いた大久保利通側は悪だというレッテルが貼られていた。

 家康に話は戻るが、断言する。家康のような国政の仕組みを作った為政者は古今東西、ほとんどいないと言っていいだろう。なぜなら、300年近くも争いがなかった国など、今までに存在したろうか。

 では、信長はどうだろうか。

 正直、明暗がはっきりし過ぎていて、判断に苦しむ。能力のある者を見極め登用する度量、傭兵を用いるなどの斬新な戦略と突飛な戦術、楽市楽座に見られる柔軟な経済概念など、他の戦国武将と比較するとぶっちぎりに有能で実行力がある。決断力に関して言えば、鳩山首相の1億倍はあるだろう。

 反面、どうしてこんな愚かなことをするのか! と驚くことも多い。人間というものがまったくわかっていなかったとしか言いようがない。光秀に討たれるのも必定だった。光秀でなくても、他の誰かに討たれただろう。あそこまで恨みをかうのは、どう贔屓目に見てもマイナスである。早死にすることによって、事を成し遂げられないのだから。彼の言動、つまり彼のすべてがマイナスの磁場をもっていたと言って過言ではない。

 

 安土城趾はあまり城の形をとどめていないと思ったが、予想以上に城の全体像が残っていて、嬉しい誤算だった。

 あの山に登り、天守閣があった跡地に立って周囲を見渡せば、いかに信長という男が奇想天外であったかわかる。否、天守閣ばかりではない。大手道からして、大胆不敵だ。本来なら、敵の侵入を困難にするため、城内の道は多くの角を設ける。視界が悪いというのは、それだけで恐怖感を与えることができる。

 しかし、安土城の大手道は、まっすぐズドン! である。攻めてくるなら攻めて来やがれ、という感じだ。

 やはり時代が要請したのだろう。信長─秀吉─家康という路線は理に適っていたのだ。

 ということは、乱世ともいうべき現代が求めている人材とはいかなるものか……。

 続きは次回にて。

(091222 第136回 写真は安土城趾の大手道)

 

 

 

 

 

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