美にいざなわれる蛾
先月のある日、車で走っていると、改装なったアルファロメオの販売店が目に入った。
私はまるで街灯に引き寄せられる蛾のようにハンドルをきり、ショールームに滑り込んだ。
「美しい!」
まず目に飛び込んできたのは、目の覚めるような黄色の4C。スパイダーの後継車で、よりスポーティーさを増している。
もう一台、惹かれたのは赤のSTELVIO(ステルヴィオ)。こちらはSUVでやたらデカイ。次はSUVに乗りたいと思いつつ、こうまで大きいと手に余る。
いずれも1,000万円前後するのだから今の私には無縁の車だが、舐めるように見てしまう。全体のプロポーションはもちろん、各部の造形に至るまで、とにかく「美しい!」。
営業マンにいろいろ質問したが、ひとつ解せなかったのは、デザイナーの名前が明らかにされていないということ。イタリア車といえば、まずは「誰がデザインしたのか」だが、それが明らかにされていないというのは時代の趨勢なのか。イタリアでカーデザイナーといえば、サッカーのスーパースターのごとき崇められているはずなのに、どうやらそうではなくなりつつあるらしい。
私が12年間乗り続けている車は、ジウジアーロとピニンファリーナの合作。今でも、「美しい」と惚れ惚れしながらドアを開ける。ちなみに、イタ車は壊れるという〝常識〟に反して、ほとんど故障らしい故障はなく12万キロも走っている。むしろ、燃費は上がっており、人馬一体感も増してきた。愛すべき駒である。
自然も美しいが、人がつくったものも美しい。そう思わせてくれるイタ車は、やはり稀有な存在である。
(190211 第877回 写真上は4Cのエンブレム、下はステルヴィオのエンブレム)