選別によって多くの共感者を得た「読書のすすめ」
どんな斜陽業界にも本筋はある。
そう思わせてくれるのが、江戸川区の書店「読書のすすめ」。店主の清水克衛氏は以前、『Japanist』でも紹介しているが、実際に自分で読み、いいと思った本しか扱わないというスタイルを貫いている。
それは、言い換えれば、世の中には扱いたくない本が溢れかえっているということでもある。面白いことに、そういう本のほとんどはベストセラー本なのだという。つまり、つまらない本でなければたくさん売れないということ。ますます薄っぺらになっていく現代において、たくさん売るには薄っぺらな商品にするしかない。稀に、ホンモノがヒットすることがあるにしても、そういう事例はごくわずかだろう。
私も何冊か本を出しているが、たくさん売れたら気持ち悪い。そう言うと、負け惜しみのようにも聞こえるだろうが、嘘偽らぬ本音である。わかる人にわかってもらえばいいと思っている。このことは本に限らず、私の仕事の流儀といってもいい。「より多く」を狙えば、どうしても平均化・均質化せざるをえない。マクドナルドやコンビニがそうであるように。手っ取り早く何かを得るというお手軽ハウツー本がそうであるように。そういう仕事はしたくない、とずっと思ってきた。
「読書のすすめ」が本質的経営だとわかるのは、多くの共感者(ファン)をつかんでいるということ。右上の写真でもわかるように、店舗の〝ナリ〟はどこにでもある、ふつうの本屋さんだ(失礼)。誰もが知るように、そういう〝町の小さな本屋さん〟はドンドコ淘汰されている。しかし、読書のすすめは全国に共感者がいる。ちなみに、読書のすすめのサイトは一日あたり1〜3万のアクセスがあるという。驚き以外のなにものでもない。
どうしてそれだけの共感者をつかんでいるかといえば、「選別」を徹底した結果にほかならない。どの書店も競ってベストセラー本を扱うのに、「読んでもつまらないから」という理由で扱わない。まず、商品を選別、いや、峻別しているのだ。
さらに、今年から「一見さんお断り」にしている。
「えー!!!! 書店なのに一見さんお断りだって!!!!!!!」とビックリマークをいくつもつけながら声が裏返ってしまった人も多いにちがいない。その結果、客の質がさらに上がったというのだから、本質以外のなにものでもない。
どの書店へ行っても並んでいる本は同じ、と思っている人は多いと思うが、そういう人はアマゾンで買う。どこで買っても同じなのだから。私もアマゾンを利用することがあるが、それは自分が買いたいものがはっきりしている場合だ。
そのような状況下、「あの人が推薦する本なのだから面白いはずだ」と期待を抱かせるところに共感者を増やす起点がある。そういう共感がさらに共感を呼んで、現在の状況をつくったと想像する。
大切なことは「共鳴・共感者を増やすこと」、そのために「選別すること」といつも言っているが、それを実証している好例が「読書のすすめ」でもある。目先の結果が欲しくてAIを使えば、独自性を失うのは火を見るより明らかだ。
清水さんと相棒の小川貴史さんが毎月1冊選んで会員に送る「成幸読書」というシステムがあるのだが、先月、拙著『葉っぱは見えるが根っこは見えない』を選んでいただいた。
「変わり者は変わり者の書いた本を選ぶということか」
という声が聞こえてきそうだ。いや、そうではない。本質を求める者同士、共感し合うということである。
まずは「読書のすすめ」のサイトを覗いて見てほしい。
http://dokusume.com/modules/store
(190307 第883回)