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紺碧の将

奈良ホテル、なのに食欲ゼロ

2019.06.01

 旅の楽しみのひとつに、どういう宿を選ぶかということがある。仕事の場合はビジネスホテルでもいいが、そうではない時は、その地域らしい、個性的な宿に泊まりたいと思っている。

 個性的な、とは間口の広い表現だが、ゲストを選別しているところ、オーナーの趣味嗜好がはっきり現れているところ、景観がすぐれているところなど、多くの要素がある。

 歴史が長いというのも重要な要素だ。

 日本クラシックホテルの会というものがある。その名のとおり、クラシックホテルだけで構成する会で、現在9つのホテル(日光金谷ホテル、富士屋ホテル、万平ホテル、奈良ホテル、雲仙観光ホテル、川奈ホテル、東京ステーションホテル、ホテルニューグランド、蒲郡クラシックホテル)が加盟している。

 奈良への小旅行で選んだのは、奈良ホテル。創業は1909(明治42)年、猿沢池のほとりに立つ、雅なホテルである。時を重ねたものだけがもつ、独特の風格を醸している。

 あらためて思うことは、明治の建築家はただ建築物を造るということを超え、〝作品〟を創っていたということ。細部に至るまで安っぽさがない。照明ひとつとっても、考えに考え抜いた跡がある。和洋折衷に挑んだ心意気が伝わってくる。

 メインダイニングの「三笠」は、典雅な趣きそのもの。いますぐ舞踏会を開けそうだ。

 このホテルを拠点にし、奈良の名所旧跡を歩くのは、なんとも心地よい。興福寺は目と鼻の先だ。ここには、なんといっても五重塔や阿修羅像など46の国宝はじめ、文化遺産がこれでもか! と並んでいる。国宝館はミュージアムめいてもいるが、これだけ多くの国宝を管理するには、こうするしかないということも理解できる。往時の人たちの圧倒的な仕事を前にしては、ただこうべを垂れるのみである。

 その足で、修学旅行の定番ともいえる東大寺へ向かう。以前、宮大工棟梁の小川三夫氏に取材した時、「木は生育のままに使え」という法隆寺口伝のわかりやすい例として、東大寺建築をあげていた。じっくり見れば、奈良時代の匠の真骨頂が見て取れる。

 

 と、本来であれば、この歴史ある迎賓館での滞在を楽しむはずだったが、なんと当日はよもやの体調不良に悩まされた。うーにゃんが死んでからというもの、左肩から背中にかけて、なにか重たいものがべったりと貼り付いた感じがしていた。さらにその日は、食欲がまったくなく、夕食時に食べたものはもずく酢とシャーベットだけであった。もちろん、酒など飲む気にもなれなかった。

 翌日は回復したが、今でも思う。あれはうーにゃんの仕業だったのだと。いつも家族が外出するのを恐れていた。まさかあの世へ行ってからもそうだとは! うーにゃんの情念、おそるべし。

 

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「美し人」公式サイトの「美しい日本のことば」をご覧ください。その名のとおり、日本人が忘れてはいけない、文化遺産ともいうべき美しい言葉の数々が紹介されています。

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(190601 第905回 写真上は奈良ホテル、下は興福寺)

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