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紺碧の将

人と物の濃密な関係

2019.12.02

 戦後、わが国の経済復興を支えたのは加工貿易立国という国策だった。安全保障をアメリカに依存し、1ドル360円という特別のハンディをもらい、ひたすら加工貿易に邁進してきた。あの当時、日本が復興するには最適の方法だった。この国策を考えた人は、国民功労賞ものだと思う。

 加工貿易とは、原料を輸入し、それになんらかの付加価値を付けて輸出すること。効率よく稼ぐには、多品種少ロットより少品種多ロット、つまり規格大量生産がいい。かくしてJIS規格によって〝基準〟を設け、それに合致した製品を効率よく大量に生産する社会システムを築き上げた。

 同時に、その社会システムに合う人間も大量に〝生産〟されることになった。真面目で規律を守り、野心を持たずに上司の命令を遵守し、基礎学力があって組織の共通理解を円滑にすること。その結果、そこそこの学力があり、「みんなと同じ」であることに不満を持たず(みんなが乗っているカローラを選ぶとか)、同じ服装(グレーや紺のスーツとか)・髪型(七三分けとか)をなんら不思議と思わず、核家族となってマイホームを手に入れ、奥さんから定額のささやかなこづかいをもらい、定年まで同じ会社に勤める典型的なサラリーマンが大量に出現することになった。

 私もやむをえずサラリーマンの仲間入りをしそうになったことがあるが、てんで使いものにならなかった。今思えば、まったく使いものにならなかったことが幸いした。中途半端に使える人間だったら、案外組織に安住し、まったく異なる人生を歩んでいたことだろう。

 その話は別の機会に書くとして、大量に作った物のことである。

 同じ物をたくさん作るわけだから、価値はどんどん下がる。みんなが持っている商品が自分に合うとは限らない。だから、愛着も薄れる。壊れたら、いや壊れなくても飽きたら捨てる。替わりはいくらでもあるのだから。むしろ、どんどん捨てる方が経済効果がいいなどとヘンな経済理論まで信奉するようになる。「便利はいい」と信じ込まされ、ますます手をかけなくなる。その流れはとどまるところを知らない。外出先からエアコンやお風呂のスイッチを入れられるのがそんなにいいことなのか?

 その結果、人と物の関係性は限りなく遠くなった。

 陰極まれば陽となる。

 反動なのだろう。最近はアナログな商品の人気が復活しているようだ。よく利用するタワーレコード新宿店の最上階フロアはレコード専門になった。同じ内容のデジタル商品よりずっと高いのに、若い人たちが買っていく。カセットテープも人気だという。いずれ近い将来、デジタルのゲームやSNSに飽きた人たちが、こぞってアナログに回帰するにちがいない(もちろん、ここでも二極化は進むだろう)。1990年代まで日本は均質社会だったが、今後はあらゆる分野で二極化が進むはずだ。簡潔に分ければ、人の思惑に踊らされる人と自分で考え、行動する人。どちらに属するかはまったく自由である。

 

 さて、前置きが長くなってしまったが、ある人物(仮にTさんとしておこう)がお嬢さんと始めたネット上のアンティーク・クラフト&アートのショップ「Cocorobae」に注目していただきたい。

https://www.cocorobae.jp

「ひとの気持ちがものに映える。ものにふれてひとのこころが豊かになる」という前提のもと、ひととものの行き交う場を〝Cocorobae〟と名づけ、そのコンセプトに合った商品を掲載・販売している。

 すべて一点物。長い年月を経ているため、傷や汚れがあったり、いびつだったり折れていたり……。でも、それをその物の歴史と受け止めて、長所とする。自分の手元に置き、生活をともにする。やがて、物への愛着が増し、人と物の関係性が濃くなっていく。そうなると、人が物に癒やされることもありえる。

 こういった関係性は、人間と人間にも当てはまる。万物斉同なのだ。

 

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(191202 第951回 写真・左から李朝白磁家形置物、フランス製のリキュールグラス、李朝木製雁木箱、スコータイ時代の牛の置物)

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