人間の根っこの話
性根とはなんだろう?
「あいつは性根が腐っているからダメだ」などと使われる。名前のとおり、人間という性の根っこにあたるものと解釈している。
もちろん、人間の目で見ることはできない。拙著のタイトルにもあるように「葉っぱは見えるが根っこは見えない」である。
性根をよくするにはなにが必要なのだろう(反対に、性根が悪い人にはなにが欠けているのか)。これはどう考えても、母親による愛(慈愛)に行き着く。幼少期に母親からたっぷり愛された人は、性根がきちんと育まれ、やがて人間の基礎として根づき、芽を出していく。父親にはなかなかできないことだ。そのかわり、父親は幹を支えることによって、人生の指針を与えることはできるのだと思う。
こう書くと、ジェンダーフリーの人たちから批判を浴びそうだが、もともと男と女の役割はちがっていて当たり前。そこに差がないと考えるほうが不自然だ。
さまざまな樹々を見るうち、この樹の根っこはどんなふうになっているのだろうと想像することが習い性になった。彼らはなに食わぬ顔をして、毎日同じ場所で同じような容姿を保っているが、その実、地中では激しい〝領土争い〟が繰り広げられているのではないだろうか。
本サイト「死ぬまでに読むべき300冊の本」で紹介した『植物の神秘生活』によれば、ムラサキウマゴヤシの根は地中12メートルも伸びるという。ライムギの支根は1300万本以上、それらをつなげると、なんと全長600km。支根には微細な根毛が約140億本生えていて、それらの全長はほぼ地球の両極間に相当するという。想像を絶するネットワークだ。そういうことを前提として、人間ができないことを平然と行っているのだ。たとえば、アメリカスギは90メートル以上も樹液を吸い上げる。人間が設計した最良の汲み上げポンプでさえその10分の1以下の高さしか吸い上げられないのに……。樹木は根っこの重要性を知っているのだ。人間のように、目先の獲物が欲しくて安易な策を弄することはない。「すぐに得たものはすぐに失われる」ことを知っている。
だから、彼らの教育は、厳しい環境に生き残れるよう、じっくり育てることに主眼を置いているかのようだ。
同コラムで紹介した『樹木たちの知られざる生活』によれば、ほとんどの子樹は親樹の近くに発芽するが、親樹は子樹を早く成長させないために、光を遮るという。早く成長した樹は早死にするからだ。ゆっくり成長した樹は年輪も詰まっていて柔軟性もあるため嵐がきても折れにくいし、抵抗力も強いため菌類に感染することも少なくなる。
すごい!
どうしてそんなことをするのかといえば、生存の厳しさを知っているからだ。なんと、一本のポプラが生涯につくる種の数が約10億個であるのに対して、きちんと育つのはたった一本しかない。
命というものの不思議をあらためて考えさせられる。
本サイトの髙久の連載記事
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(200127 第965回 写真はマチクの根)