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紺碧の将

前後100年の時間軸

2020.05.21

 明治神宮の境内に右のような2枚の巨大なパネルが並んでいる。明治神宮鎮座100年を迎えた現在の姿と、まだ山林だった100年前の風景だ。

 見てわかるように、100年経て都会のオアシスに変貌した。この森が作られた経緯については、小欄の「人の手でつくった自然の森」にも書いている。

 今回のウイルス禍で新宿御苑に行けなくなった分、明治神宮を歩く機会が増えた。広い境内に足を踏み入れるたび、しみじみ思う。100年前の日本人は、とてつもない宝物をわれわれに遺してくれたと。

 代々木に明治天皇と昭憲皇太后を祀る社と森をつくることが決まり、森林計画が定まった後、全国から苗木や若木が続々と寄進された。莫大な費用を賄うため、寄付も呼びかけられた。小学生たちも自分の小遣いをはたいて寄進したという。

 彼ら彼女らは、自分たちが生きている間はけっして拝むことのできないものに浄財と労働力を提供したのだ。利他といえば、これほどの利他はあるまい。100年後、150年後を射程に入れた時間軸があったからこそできたことだった。

 今から100年前といえば、大正9年。われわれ現代人は、その恩返しとして、これまでこの国を築いてきてくれた先人たちに思いを馳せ、われわれに遺してくれた優れた芸術や文化財、伝統芸能などを守りぬくことを肝に銘じ、次世代につないでいくべきである。韓国はそういう意識が希薄だったから、ただ便利というだけでハングル文字を採用してしまい、先人との間に断絶をつくってしまった。取り返しのつかないことをしてしまったと思っても、時遅しだ。

 ふと、イギリスの保守思想家・チェスタトンの「われわれは死者を会議に招かねばならない。古代ギリシャ人は石で投票したというが、死者には墓石で投票してもらわればならない」という言葉を思い出す。現代のわれわれが、たまたま今生きているというだけで投票権を独占するのは、「生者の傲慢な寡頭政治」だというのである。すでに亡くなっている人たちの意見も尊重し、よりよい社会をつくるべきだという主張は、長い時間軸をもっていなければ持ち得ない。そして、それこそが保守思想の本質だろう。

 今さえよければいいという考え方が、この世界を蝕んでいる。今こそ、現在の前後100年に意識を向け、行動を改める時だ。

 

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(200522 第994回)

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