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紺碧の将

小池都知事叩きに見る「出る杭は打たれる」

2020.07.11

 つくづく日本人は、出る杭を打つのが好きなのだなと思う。昨今の小池百合子都知事バッシングを見るにつけ、かなり呆れているところだ。

 私は小池さんに会ったこともないし、特別の思い入れもない。しかし、一都民として4年間の彼女の都政運営は合格点をあげたいと思っている。

 もとより政治は芸術と同様、100点満点はない。瑕疵を探そうと思えば、いくらでも探せるだろう。しかし、ただ批判するだけなら小学生でもできる。政策に対する批判は多いにけっこうだし、それこそ民主主義の根幹だと思うが、代替案なき批判は負け犬の遠吠えに等しい。

 東京都知事選の直前、『女帝 小池百合子』という本が文藝春秋より出版された。著者は石井妙子という人。いかなる人物か知らないし、興味もない。もちろんこの手の本を読む気にはなれないが、新聞広告の小見出しやアマゾンのレビューなどを読むと、おおむねこの本の要点がわかる。

 まず、なぜこの時期にこの本が出版されたか。考えられるのは次の2点だ。

①小池さんの反対勢力が石井氏にネタと資金を供与し、選挙対策として書かせた。

②話題性のある本にするため(たくさん売れる本にするため)時の人をターゲットにし、暴露本のような内容にした。

 

 おそらく②に近いと見ている。そういう意味では、小池さんの圧勝を予測したうえでの出版だろう。出版社も石井氏もウハウハにちがいない。

 この本が4年間の小池都政に対する批判であれば、文句のつけようはない。しかし、小池さん個人に関する、あまりにもくだらないことばかりが書かれているようだ。

 曰く、小池さんの父親は破天荒。

「いいではないか」と言いたい。平凡な父親もいれば、破天荒な父親もいる。それだけの話だ。父親が都政に口をはさんできたのならともかく、父娘にどんな葛藤があろうが、他人がとやかく言う筋合いはない。

 曰く、異常なほど強い権力志向がある。

「あたりまえだろ」と言いたい。そもそも地方自治体の首長は住民から直接選ばれる、いわゆる地域の大統領に近い存在。それだけ権力があるが、批判のターゲットにもなる。みんなが遊んでいるとき、仕事をしていることが多いうえ、なにをやっても批判される立場だ。ふつうの人間ならアホらしくてやってられないはず。権力欲があるからこそ務まるのだ。

 曰く、謎のカイロ時代。

「だからなに?」と言いたい。かなり遊んだと言いたいのかもしれないが、若い時分に遊べなかった人よりはるかにいい。そんなに真面目一徹な人がいいのであれば、どこかの区役所へ行って、いちばん真面目そうな人に「都知事になりませんか」と声をかけるといい。

 曰く、ある政治家と交際していた。

「それがなにか?」と言いたい。どうやら、その相手とは舛添元都知事らしいが、彼も具体的な証拠をあげて反論しているように、あくまでも結論ありきの取材に基づいた想像に過ぎない。それに、仮にそれが事実だったとして、いまの都政とどういう関係があるのだろう。

 ほかにもいろいろとくだらないことばかり書かれているようだが、要するに〝圧倒的に勝った人〟をターゲットにした誹謗中傷の域を出ていない。どんなに取材が〝緻密〟だろうが、もともとも動機が低俗なのだから、それ以上にはならない。小池知事が嫌いな人は溜飲を下げてガス抜きになるのかもしれないが……。

 私がもっとも尊敬する歴史上の人物は大久保利通だが、彼も嫌われたものである。あれだけ一身を賭してこの国のために頑張った人なのに。

 日本人は圧倒的に力を持った人よりも、志半ばで命を落とした人にシンパシーを抱く傾向が強い。いわゆる判官びいきというやつだ。その根っこにあるのは、極度の嫉妬心であり、同調圧力である。「みんなと同じ」が好きという反面、みんなと違うことを嫌う。太平洋戦争の作戦上の失敗を総括した『失敗の本質』にわれら日本人の欠点が網羅されているが、その遠因をたどると嫉妬に行き着く。

 最初の都知事選を制したとき、小池さんは「嫉妬という字は女偏ですが、ぜひとも男偏にしていただきたい」と笑いながら語っていたが、じつは男も女も日本人は異常に嫉妬心が強い。だから、人偏がもっともふさわしいと思う。故渡部昇一は、この国では勝者は称えられないし、聡明なリーダーは嫌われると書いていたが、そのとおりだと思う。

 韓国は恨(はん)の、日本人は嫉妬の文化。時代が変わっても、血は変わらないようだ。

 

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(200711 第1006回)

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