I walk slowly, but I never walk backward.
エイブラハム・リンカーン
これこそが政治家の本分なのだと思う。
「私は歩くのが遅いが、来た道を引き返すことはしない」
周囲の人たちからすれば、もどかしく思うこともあるだろう。もっと早くやれと。政治家であれば、なおのこと、早く結果を求められる。
それと正反対なのが、革命だ。革命のほとんどはやむをえない理由があるにせよ、成就したあとは、判で押したように恐怖政治を敷く。自分たちが急激に体制を変えたことで、次は自分がターゲットにされると思いこんでしまうのだろうか。レーニン、スターリン、毛沢東、金日成、ポル・ポト、チャウシェスク……。みんな、恐怖に怯えていた。そして、いったい、どれだけ人を殺せば気が済むのかと呆れるくらい殺した。
話は戻す。リンカーンが「自分の歩みは遅い」と言ったことの真意をはかるべきだろう。彼は沈思黙考したのだ。じっくり考えて、考えて、考えた末に結論を引き出し、歩を進めた。はじめの一歩は遅いが、いったん决めたことは、なにがあっても貫く。どんなに批判があっても……。
ある意味、ポピュリズムとは対極にある。
そういう政治家は、存外少ないものだ。
リンカーンは、だからこそ、歴史にその名を刻む大仕事ができたのではないか。
(第50回 210502)
●知的好奇心の高い人のためのサイト「Chinoma」10コンテンツ配信中
本サイトの髙久の連載記事
髙久の著作