燃えたぎる心
私は自分で言うのもナンだが、無節操と言ってもいいくらい、キャパが広い。食べ物は何でもオーケー、嫌いなものはない。音楽の趣味も雑多。ブラームスの美しい旋律にうっとりした直後、レッド・ツェッペリンの『ロックン・ロール』で体中の血が逆流するほどにしびれてしまう。また、私の意識の中では『論語』も『老子』もマキャヴェリの『君主論』も矛盾しないし、東南アジアの汚い街頭にいても都会のスノッブなレストランにいても山や森にいても楽しめる。ひとりで過ごすのも好きだが、人と会うのも好きだ。
そんなわけなので、静かな時間ばかりが私を魅了しているわけではない。
というより、日常生活では怒り心頭に発すという状態がしばしばあり、キリキリしていることも多い。
まったく話は変わるが、サッカーの試合を見ている時の私は、けっこう燃えたぎっている。あれは何だろう? 無性に血が騒ぐのだ。夕方、心を鎮めて木々のシルエットを見ているときの自分と同一人物とは思えない。
パリ郊外でパリ・サンジェルマンとリールの試合を見た時は特にそうだった。試合前から観客はヒートアップし、アウェーのリールの選手たちは機動隊に守られながらスタジアム入りする始末。試合前からやけに騒然としていた。同じ国民なのにそこまでするのか! そこへいくと、われわれ日本人のサッカー観戦はじつに穏やかで、友好的である。どちらが好きかと問われたら、私はラテンヨーロッパ型の観戦が好きだ。
試合が始まってすぐ、発煙筒が焚かれた(写真)。なんと、そこはドームスタジアムなのである。ドームで発煙筒を焚くと、どうなるか? もちろん、煙でフィールドが見えなくなる。煙がピッチを覆うと、興奮度合いもさらに高まる。そして、やがて煙間から選手たちの姿が……。それがまた劇的で血を逆流させてくれる。
最近、外国へ行っていない。今年の4月は初のアフリカ旅行を予定していたが、震災の後でそれどころではなかった。
そろそろどこかへ行きたいと内なる自分が騒いでいる。
(110701 第262回 写真はパリのサッカー場)