多樂スパイス
HOME > Chinoma > ブログ【多樂スパイス】 > 空と風がやってくる

ADVERTISING

私たちについて
紺碧の将

空と風がやってくる

2021.06.21

 今月はじめのことだった。そろそろ音楽を消して寝ようと思った矢先、「どうしよう……」と言いながら、家人がリビングに入ってきた。言葉は困惑しているふうだが、表情は明らかにニヤけている。

 おもむろに私の前にスマホをかざした。ディスプレイには何匹かの子猫が写っている。どうやら生まれたばかりの子猫を写した動画のようだ。詳細に見ると、全部で4匹。しかもすべてキジトラ。1匹だけグレーっぽい毛色だが、揃いも揃ってキジトラばかり。私は「一にキジトラ、二にキジトラ、三四がなくて五に茶トラ」という具合にキジトラが好き。もちろん、これは個人的な好みであり、それ以外のネコが嫌いなわけではない。この好みは家族にも伝染してしまったようで、次にネコを飼うことがあるとすれば、そのときもキジトラというのは家族間の暗黙の合意だった。ただし、うーにゃんが死んでから2年と少し。まだ心の傷が癒えているとは言えない。いずれ、どこかで縁があれば……くらいに考えていた。

 しかし、その辺の道端で運命的な出逢いがあるとは思っていなかった。もちろん、世界中どこにでもいるキジトラがペットショップで売られているはずもない。だから、新しいネコが我が家にやってくる確率はかなり低いだろうと思っていた。

 ところが、である。妻の知人の友人の家で生まれた子猫を飼ってくれる人を探しているらしい。

 おそらく、動画を見た瞬間、私の目はハートの形になっていたと思う。あるいは、瞳のなかにハートマークが灯っていたかもしれない。

「へえ〜、かわいいな」思わずつぶやいた。

「これも縁だろうし。うーにゃん、そろそろ新顔が来てもいいよね?」とうーにゃんの遺影に声をかけた。

「せっかくだから2匹飼いたい。2匹が仲良くしているのを見るのが夢だった」と妻が言う。夢にもいろいろなものがあるものだ。

「えー! 2匹?」

 私の脳裏に、2匹のネコが我が家のあちこちでじゃれ合いながら猛ダッシュしている光景が浮かんできた。あるいは、大ジャンプしてレースのカーテンに飛びついている様子が。

「2匹ねえ……」

 ためらっていはいたものの、本心はちがっていたようだ。なぜなら、夢のなかで早くも2匹の名前をつけてしまったのである。

 朝、妻に言った。

「名前が決まった。1匹は空と書いてクウ、もう1匹は風と書いてフウ」

 うーにゃんの本名は海。となれば、次は空と風だ。ただし、ソラ、カゼと読んではつまらない。そこで、クウとフウにした。

 2匹は7月上旬、くしくも2度目のワクチン接種の日に我が家にやってくる。飼い主は(おそらく)千葉に住んでいるようで、仲介してくれた知人が選んで連れてきてくれることになった。生まれてまだ1ヶ月も過ぎていないため、性別もわからない。

 なんとも楽しみである。ワクワクが止まらない。

 余談だが、1回目のワクチン接種は拍子抜けするくらいあっという間だった。医師が「なにか心配な点やご質問はありますか」と言うから「特にありません。強いて言えば、今夜酒を飲んでいいのかどうかだけが心配です」と答えた。

 どうやらワクチン接種に関するデマが流れていて、それを真に受けている人が多いという。私はまったくSNSを見ないからわからないが、ワクチンを打つと「永久的に不妊症になる」「遺伝子が組み替えられる」「マイクロチップを埋め込まれる」などのフェイク情報が氾濫しているという。そんな、子供だましのデマが信用されるとはとうてい思えないが、さにあらず。真に受けている人が少なくないという。

 人間の心は、光の届かない奥深い井戸のようだ。

(2106121 第1081回)

 

●知的好奇心の高い人のためのサイト「Chinoma」10コンテンツ配信中

本サイトの髙久の連載記事

◆音楽を食べて大きくなった

◆海の向こうのイケてる言葉

◆うーにゃん先生の心のマッサージ

◆死ぬまでに読むべき300冊の本

 

最新の書籍(電子書籍)

『偉大な日本人列伝』

『葉っぱは見えるが、根っこは見えない』

【記事一覧に戻る】

ADVERTISING

メンターとしての中国古典(電子書籍)

Recommend Contents

このページのトップへ