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紺碧の将

馬とのコミュニケーション

2011.08.27

 親交深い陶芸家の坂田甚内さんは行動範囲が甚(はなは)だ広く、甚だ強引だ。

 「キミに会わせたい人がいるから8月21日の午後、空けといて」と言われていた。

 「その日は僕のアトリエに午後1時半に集合し、それから大田原の那須野ヶ原ファームへ行って、その後、近くのスペイン料理店でたらふく飲み食いし、僕のアトリエで僕がプロデュースした旨い純米酒を飲んで、そのまま僕の茶室に泊まっちゃえばいいよ」とまるでツアーコンダクターのようなスケジューリングを披露された後、甚だ素直な私は「はい」と答えたのであった。

 甚内さんがどう強引かといえば、例えばこうだ。5、6人であるレストランで食事に行ったとする。本来であればめいめいメニューの中から自分がオーダーしたいものを選ぶはずだが、そんなことははなっから甚内さんのアタマにはない。いちばん見栄えのいいウエートレスを呼んでメニューの特徴をあれこれと訊き、甚だ手際よく全員分の食事を注文してしまうのだ。手っ取り早いといえば手っ取り早いが、もし嫌いなものがあったとしたら不満が残るだろう。しかし、そういうことを考えないところが甚内さんの真骨頂で、私は「らしくていいな」と肯定的に見ている(なんて、心の広い……と自画自賛)。

 さて、那須野ヶ原ファームというところは、眼前に八溝山系を臨む、スケールの大きな丘陵地帯にある。一見すると、そこが日本だとは思えない。フランスかスイスに空間移動してしまったの? と思えるくらい、甚だ美しいランドスケープだ。そこに馬が十数頭いるのだが、簡単にいえば乗馬をする場所である。

 私たちが訪れたとき、大きな室内練習場で馬術の基本訓練が行われていた。トレーナーは、オリンピックの日本代表選手も教えているというインド系の女性だった。

 その後、甚内さんが私に会わせたいと言っていた大塚千晶さんという方から、馬とのコミュニケーションについてのレクチャーを受けた。「今日は馬に乗れるぞ」と思っていたので、いくぶん肩すかしを食った感じだが、聞けば聞くほど納得がいった。

 曰く、馬とのコミュニケーションがなされていない状態でいきなり馬に乗るのは、馬にとって甚だ迷惑、人馬一体となった乗馬はできないとのこと。

 それもそうだろう。私だって、いきなり他の生き物が背中に乗ってきたら、甚だ迷惑と思うにちがいない。

 大塚さんの説明によると、野生の馬は集団で行動する。肉食動物から身を守るためだ。その際、リーダーの指令によって集団は行動するのだが、リーダーになる条件は「出産経験のある雌」であるという。これには苦笑いしてしまった。たしかに、人間でもいちばん強いのは出産経験のある女性だろう。はっきり言って男なんてメじゃない、この世に怖いものなしだ。もちろん、独身のチャラチャラした子は及びじゃない。ただ、人間の場合は、指導力のある男の陰にしっかり者の女性がいるという構図は多いが、それもまた理にかなっていると思う。

 話を戻す。リーダーの雌馬は、周りの様子を窺い、危険を察知するとさまざまな指令を発する。指令の多くはちょっした行動によるものだが、馬とのコミュニケーションを図る際は、その動きを修得することから始まるという。馬は自分たちの身の安全を確保してくれるのであれば、リーダーが馬であろうと人間であろうと頓着しないということなのだろう。

 それにしても、馬も人間と同じように、さまざまな個性があることがわかった。だから、その個性を無視していきなり背中に乗るというのは馬にとって甚だ迷惑なのだ。

 今回は甚内さんにちなんでたびたび「甚だ」という言葉を使ってしまった。これも敬意の表れだと思っていただければ幸いである。

 え? はなはだ読みづらい、だって?

 大変失礼しました。以後、気をつけます。

http://www.nasu-farm.jp/

(110827 第276回 写真は那須野ヶ原ファームにて。左から大塚千晶さん、坂田甚内氏、馬、高久)

 

 

 

 

 

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