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私たちについて
紺碧の将

元自衛官の嘆き

2021.11.22

 わが家の小娘は近代史に興味を持っているようだ。大学の卒業記念には本人の要望で家族で知覧へ行ったし、今回、『坂の上の雲』を読了したというから、三笠や東郷平八郎に興味があるだろうと思い、横須賀へ連れて行った。

 三笠記念艦にはすでに何度も足を運んでいる。横須賀軍港めぐりをしたこともある。知人のはからいで、空母キティホークの艦内に案内されたこともある。やはり男の本能なのか、軍艦ものには血が騒ぐ。しかしまた、どうして20代の女の子が……。おそらくオトコ脳なのだろう。

 三笠記念艦に乗り込むや、一人のボランティアガイドが目についた。若い世代の人たちをつかまえては説明している。興味ありげな人もいれば、ちょっと迷惑なんだけどという表情の若者もいる。くだんのガイド氏は、最後に「いまはこういうことを学校で教えてもらっていないからなあ」と顔をしかめる。意を尽くして説明をするが、聞き手がまったく理解していないのがもどかしいのだろう。

 私たち(父娘と思ったか、あるいは若い娘を手なづけたけしからんヤツと思ったか)のところにも来た。聞けば、30数年、自衛官を務め、潜水艦に10年以上乗り込み、アメリカ海軍との交流もあったそうだ。元〝海の武士(もののふ)〟だけあって、眼光鋭く、高齢者特有の弛緩した様子がない。

 私たちはその人の話に聞き入ってしまった。安全保障に関することや自衛官時代のエピソードが面白かった。

 そのなかで、ひときわ印象深い話があった。阪神神戸大震災のときのことだ。

「テレビで被災した人が、『どうして自衛隊は来てくれないのか』と語っているのを聞いて、ああこれでようやく国民が自衛隊を認めてくれたと思い、涙が流れましたよ」

 当時は、あろうことか社会党の村山富市が首相だった。連立政権を組む上での駆け引きとはいえ、絶対に首相にしてはいけない人を選んでしまったことが凶と出た。そもそも村山は自衛隊を否定的に見ていた人。加えて当時の兵庫県知事がゴリゴリの左翼で、これまた自衛隊などとんでもないと思っていた人だ。その頃は、自治体からの要請がなければ自衛隊は出動できないことになっていた。その結果、自衛隊が現地に派遣されたのは、地震発生の翌日だったという。その間、多くの人命が失われた。明らかに、思想的殺人である。人がどういう思想をもつのも自由だが、それが人の命を奪うものであってはいけない。その時の教訓からか、その後、甚大な自然災害などの場合、自治体からの要請がなくても国が自衛隊を派遣できると法改正し、東日本大震災の時はそれが功を奏した(とはいえ、あの時も菅直人というトンデモナイ人が首相だったが)。もちろん、くだんのガイド氏は当時の左翼政権に対しても怒りを露わにしていた。

 そのガイド氏が信用できると思ったのは、該博な知識と絶妙なバランス感覚である。日露戦争は山本権兵衛という大局観をもつリーダーのもと、圧勝することができたが、昭和になるとそれが災いして「日本海軍が負けるはずがない」という根拠のない精神主義に陥った、と。

 現在、日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。いつなんどき、有事が発生するかわからない。それに対応するため、自衛隊や在日米軍が日夜警戒にあたっている。一方で、そんなことは露ほども関心がない人たちが、享楽にふけっているか、自分の窮状ばかり訴えている。

 ガイド氏の嘆きはいかばかりか。

 

まずは「横須賀軍港めぐり」に参加。さっそく海上自衛隊の潜水艦を間近に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アメリカ海軍のイージス艦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

原子力空母ロナルド・レーガンが停泊していた。全長333メートル。東京タワーを横にすると同じ長さになる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日露戦争時、連合艦隊の旗艦を務めた戦艦三笠の艦首

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

艦尾

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

操舵室

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最上艦橋。砲弾が雨あられと降ってくるなか、ずっとここに東郷平八郎元帥が立っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三笠公園の東郷平八郎像

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(211122 第1103回)

 

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