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紺碧の将

いじらしい話

2011.10.03

 京都の西原金蔵氏を訪ねる機会があったので、逃すことなくスイーツのコースをいただいた。

 西原氏が町屋を買い取り、改装の後、昨年オープンさせたその店は、1階がサロン・ド・テ、2階は自慢のシステムが並ぶオーディオルームと畳の間になっている。サロン・ド・テは客が途切れず、いつも人でごった返ししているが、2階はあくまでも静謐で西原氏の私的空間となっている。そのコントラストがいい。男なら、いや男に限らず憧れる空間であろう。

 スイーツのフルコースと聞くと、甘いものばかりで飽きるのではないかと思われがちだが、どっこいそんなことはない。そのあたりはきちんと考えられていて、飽きのこない物語が用意されている。全部で4品ほど供されるが、変化に富んだメニュー構成は多くの引き出しがあるがゆえできること。

 その中の1品、抹茶のアイスクリームを右上に掲載した。見るからに本物の抹茶然としている。が、ひとくちスプーンですくい、口に含むとほどよい甘さと渋みが口内に広がる。自然な滑らかさ、そして器のセンスの良さなど、どこをとっても「金蔵真骨頂」である。

 グルメ番組で、よく芸能人が目を丸くして、「おいし〜〜〜〜〜い!」と無教養な声をあげることがあるが、あれはうそっぱちだ。なぜなら、本当に美味しいときはすぐに言葉などでてこない。

 食事の後、西原氏から「音楽でも聴きますか」と誘われ、2階へ。

 とてつもないオーディオセットが今か今かと待っていた。巨大なJBL他3種のスピーカーセットと真空管アンプをはじめとしたいくつものアンプセットなど、オーディオファンが見たら垂涎ものである。しかも、そのようなセットが自宅と事務所にもあるというから驚くばかりだ。大きな部屋でなければ鳴らせるようなシロモノではない。

 西原氏が好きなエラ・フィツジェラルドで狼煙をあげ、マーラーの第4番、ショパンのノクターンなど、続けざまに大きなボリュームで堪能した。目の前に演奏者がいるような錯覚にとらわれた。

 私の周りに「凝り性」は数多くいれど、西原氏もかなりイイ線いっている。凝り性の大半は男性だが、一説によると、遺伝子上の欠陥をモノによって補っているという。たしかに「道具」や美術品に凝るのはほとんどが男だ。

 なんとも、いじらしい話である。

(111003 第285回 写真はオ・グルニエ・ドールの抹茶アイスクリーム)

 

 

 

 

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