春はもうすぐ
北京オリンピックが閉幕した。
オリンピックを政治利用するのは政治家の常套手段だが、中国のやり方は常軌を逸している。体に悪いくらい辟易したが、それとは別に、極限まで自分を磨き続けた結果を競う姿は、やはり美しかった。
オリンピックが終わってしまうのは寂しいが、片面、ホッとしている。いま、猛烈な勢いで原稿を書いているからだ。
夢のなかでも書いている。勝手に脳が動く。いつも朝6時半ピッタリに、愛ネコ詩が起こしにくるまで爆睡するが、そういう朝は、頭がボーッとする。ま、起きてしまえば、いつもと変わりはないのだが。
先日、30年以上親しくしている友人と寿司屋へ行った。他愛もない話がするすると継がれる心地ち良さを味わう。
「オススメの『風と共に去りぬ』を読み始めましたよ。30年以上前に買った本で、差別用語がすごい。違和感を覚えるくらい。でも、それがあるから南北戦争当時の空気感が伝わってくるんですよね」
「僕は『ノートルダム・ド・パリ』を読み始めましたよ。いきなり物語とはまったく関係ない話をダラダラと続けるところはシンドイですけど」
「ユゴーのクセですね。当時の作家たちって、なんでも知っていたんですね。いまのようにインターネットもないのに、博識に驚きますよ。ところで、最近オペラにハマっているんですけど、ズバリ、なにが一番好きですか」
「そりゃもー、『魔笛』で決まりでしょ!」
「それ、同感」
「こんど、『椿姫』、演るんですよね。日頃の感謝を込めて、招待してくれませんか」
「なんですか、それ!」
そんなことを話していると、私の脳裏に夜の女王が歌う「復讐の心は地獄のように燃え」が流れてくる。あの、五線譜を超えた最高音のFが鳴り響くのだ。
芸術を語り合ったり、どうでもいいクダラナイことで笑ったり……。
そういうのって、いつまで続けられるんだろう。
フクジュソウが地面から「コンニチハ」し、モクレンの芽がパンパンに膨らんできた。
春はもうすぐ。
(220221 第1116回)
髙久の最新の電子書籍
本サイトの髙久の連載記事