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紺碧の将

陰謀論を信じる人々

2022.04.18

 私はSNSをいっさいやっていないし、いっさい見ていないから知らなかったが、ロシアによるウクライナ侵攻で、民間人が虐殺されるなど、目を覆いたくなるほど凄惨な実態が伝えられる状況下、「戦争被害はウクライナの自作自演」「虐殺は捏造」「ウクライナはネオナチに支配されている」「プーチン大統領はウクライナを救う」などといったデマ情報を発信する人が増えているという。なにを信じるのも自由だが、あれだけ多くの無辜の人が死んでいることを肯定しているようで、不愉快きわまりない。

 陰謀論はいまに始まったことではない。また、日本にだけ起こる現象でもない。とはいえ、なぜこの手の情報をまともに信じてしまうのか、理解に苦しむ。

 以前、ある人に食事を誘われ、断りきれなかったため、出かけたことがあった。六本木の高級和牛店で、だだっ広い部屋に長方形の大きなテーブルがひとつだけ。一瞬、拉致されたのではないかと危惧したほど異様な雰囲気だった。

 食事の途中、相手はいきなり大判のクリアファイルを取り出し、写真画像を示しながら、「9.11(同時多発テロ)はアメリカの自作自演」「アポロ11号は月に行っていなかった」などと言い始めた。はじめはたちの悪い冗談だと思い、黙って聞いていたが、どうやら彼は本気らしい。目が座っていた。いまは簡単にフェイク画像をつくることができる。より騙しやすい時代になったといえる。

 その後、デザートにも手をつけず、早々に退散したのは言うまでもない。そのときも思った。「じつは○○だった」というデマ情報を本気で信じ込んでいる人がいるんだな、と。

 こうした荒唐無稽なデマ情報を信じたり拡散する人には、ある傾向があるという。そのひとつは、不安や不満を抱えているということ。そういう人にとって、陰謀論にハマるのはある種の心理的な効用があるらしい。「私たちだけが真実を知っている」という優越感を得られ、仲間内で発信すれば承認欲求を満たすこともできるからだ。社会心理学的には「認知のゆがみの定着」というらしいが、そうなると「公式情報やメディアが報じていることはウソ。じつは黒幕がいる」という見方しかできなくなってしまう。

 SNSは似た価値観の投稿ばかりが表示されため、「同志」「仲間」がいるとも思えてくる。これはエコー・チェンバー(小さな部屋のこだま)と呼ばれている。

 近年でも、デマはたくさん拡散された。「米大統領選で不正があった」「新型コロナワクチンは殺人ワクチン」「ワクチンにマイクロチップが埋め込まれている」「世界の資本家が人口削減を狙っている」「ディープステート(闇の政府)と戦っている」など、枚挙にいとまがない。そのような犯罪級のデマは「Qアノン」と呼ばれる集団が発信することが多いらしいが、ひとつ不思議なのは、その手のデマを信じている人のほとんどがトランプ前大統領を信奉しているということ。Qアノンとトランプ氏には、なんらかの関係があるのではないかと疑ってしまう。

 家族が陰謀論を信じ込み、家族関係に亀裂が入っている例もたくさんあるそうだ。新興宗教にハマるのも、だいたい同じような理屈なのだろう。

 情報とはうまくつきあうべし。じゃないと、「オレオレ詐欺」ならぬ「じつはこうだった」陰謀論にハマり、大切な人との人間関係を破綻させかねない。

(220418 第1124回)

 

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