注目している人物
先日、久しぶりにある人と再会し、こう尋ねられた。
「いま、髙久さんが注目している人は?」
答えに窮してしまった。すぐに答えたくて高速で脳を回転させるが、いっこうに浮かんでこない。結局、「いまのところ、だれもいませんね」と答えるしかなかった。答えながら、これではいけないと思った。
『Japanist』を編集していた頃は、つねにそういうアンテナが立っていた。どこかに面白い人はいるまいか、と。また、周囲からもたくさんの情報が集まってきた。しかし、『Japanist』を終えてからというもの、そういうことがなくなった。
そうなると、〝ほんとうの自分〟が現れてくる。
どこに関心が向いたか?
その大半が、「時間に摩耗しない本物」であった。つまり、数十年、数百年と経っても色褪せることのない、超一級の芸術である。以前に増してドストエフスキーやバッハやモーツァルトや北斎や芭蕉の素晴らしさがわかるようになった。若い頃はあまり食指が動かなかったオペラだが、いまは3時間があっという間と思える。歌曲もそう。
それはそれでいいのだろう。
しかし、それだけではいけないとも思う。はるか昔に生きた、超一流の人が遺した文化遺産を尊び、堪能しつつ、自分と同じ時代を生きる人たちの動きにも着目せねば、と。
それから「注目すべき人物」というワード・ファイルをつくり、自分なりに情報を集め始めた。現在、そこに記されているのは4人。
これも「故きを温めて新しきを知る」のひとつかもしれない。
(220613 第1132回)
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