病は気から、桜の陶器から
このところの寒波はなんだ?
寒さに滅法弱い私は、体表面積を80%くらいに縮めて放熱を抑え、ふだんより1枚余分に着込んで対応するものの、やはり劣勢は免れない。
ちなみに、暑さには強い。さすがに昨今の猛暑はいい加減にしてほしいと思うものの、昨年などは暑い日盛りにジョギングで汗を流し、冷凍庫でキンキンに冷やしたビールを2本、一気に飲み干したら次の日から下痢が止まらず、生まれて初めて急性腸炎を患ってしまった。少し食べたり飲んだりしただけですぐに下してしまうという状態が3日くらい続き、やむなく病院へ。
「あー、これは急性腸炎ですね。ご無理をされました? え? それは無茶ですね。ま、しばらく暴飲暴食は避けてください。特に冷たいものは控えてくださいね」と医師から優しく諭された。ただし、表向きの言葉とは裏腹に、「コイツはバッカじゃないの。そろそろ年を考えろよ」というニュアンスが言外に漂っていた。もちろん、その通りである。ややもすると、熱射病で倒れて救急車で運ばれる事態になったかもしれない。
さて、その日の夜、神楽坂の料亭で親しい人たちと会食があった。そこへ行くまで気が進まなかった。できることなら、断りたい。しかし、私が間をとりもったということもあり、出席しないわけにはいかない。そこで、冒頭、控えめに「今日は急性腸炎なので、お酒は飲めません」と宣言した。
「まあ、乾杯くらいいいじゃないですか」と言われ、ビールをつがれる。
一口飲むと、案外旨い。そのうち、話が盛り上がり、こらからの国のあり方などをテーマに口角泡を飛ばし、時間の経つのも忘れて話し込んでいた。気がつくと、ビールや日本酒をしこたま飲み、コース料理の8割くらい平らげていた。
あ、そうだ、自分は病気だったのだと思い出したのだが、なんと、腸炎は治ってしまったようだ。病は気からというが、ほんとうにそうだったのだ。身をもって体験したのである。
ところで、この寒いのに、早くも梅がほころび始めている。
「そうか、植物はちゃんと春の気配を感じ取っているんだ」
その感能力には驚かされるばかりである。
それに合わせるかのように、日本橋高島屋では毎年恒例の島田恭子展が始まっている。『Japanist』第8号でもご紹介した陶芸家である。
島田恭子と言えば、桜。椿や梅やススキなど、その他の植物もモチーフとするが、なんといっても彼女の真骨頂は桜である。今や島田女史は “先生” と呼ばれるご身分だが、私はいつも親愛を込めて“恭子ちゃん”と呼んでいる。容貌は吉永小百合に似、売れっ子陶芸家らしくない屈託のなさは、まさに“年上の妹”である。
(120129 第314回 写真は島田恭子氏の作品)