ステマ広告と仕事の本質
広告の制作を生業としてから、もうすぐ36年になる。
創業は1987年、バブルの勃興期だった。「おいしい生活」に象徴されるように、企業はこぞって〝気の利いた〟〝ユニークな〟〝余裕のある〟広告を発信した。それによって「広告文化」とも言われるようになり、サブカルチャーの一角を占めるに至った。
しかしバブルが崩壊し、失われた20年(あるいは現在も進行中)の間に広告に求められるものは様変わりした。費用対効果が厳しく問われるようになり、〝売らんかな〟がミエミエの広告が幅を利かせるようにあった。
それだけなら、まだいい。近年はステマ広告という、犯罪ギリギリの広告手法が主流になりつつある。
ステマとはステルス・マーケティングの意味。平たく言えば、消費者に宣伝広告であることを隠し、それと悟られないように一般消費者の立場を装って広告活動を行うことである。
昔から、あたかも人気があるために行列ができていると装う「サクラ」という手法があった。これはまあ可愛いもんである。あるいは、新聞や雑誌に記事風の広告を掲載することもあった。ただ、その場合も、紙面の欄外に「広告」という文字が入っていた。
しかし、近年はTwitterやInstagram、FacebookなどSNSが普及したことで、一気に大量の情報を発信することができるようになり、いとも簡単に消費者を騙すことが可能になった。
もちろん、そういう手法で目先の売上を確保しても、商品(サービス)が良くなければ、長く支持されることはない。それでもステマ広告に頼る企業が後をたたない。
私たちコンパス・ポイントはそういう広告を請け負わない。消費者を騙して儲けようとする人たちの片棒を担ぐことは、最低限の信義に反する。
冷静になって考えると、果たしてそういうやり方で一時的に売上が上がったとして、それがいったい働く者の幸福感につながるのだろうか。虚しいと感じれば、まだましと言える。問題は、なんら疚しさを感じることなくエスカレートしていくケースである。
翻って、弊社のサイト「Chinoma」の記事のなかのひとつ「人の数だけ物語がある」欄で紹介した川本恵三さんの生き方を見ると、ステルス・マーケティングとは正反対の、幸福な働き方が垣間見える。
時代遅れと一笑に付すのは簡単だ。しかし、彼の生きてきた道には、仕事の本質が凝縮されている。若い世代にとってもヒントになることが満載である。
(220306 第1170回)
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