和歌の前において平等
2023.11.26
一年でもっとも心地よい季節である。
私はエアコンが嫌いで、夏は冷やしすぎず、冬は暖め過ぎずを心がけている。そんなわけで、エアコンを使わなくてもいい秋と春はじつに過ごしやすい。
とはいえ、今年は秋が短い。猛暑からいきなり晩秋になってしまった感がある。ま、これはこれで天のはからいによって、文句は言えない。
――石山の 石より白し 秋の風
芭蕉の句。秋の風を白いと感じたいにしえの詩人の感性に驚かされる。
――風の音に もの思ふわれか 色染めて 身にしみわたる 秋の夕暮れ
こちらは西行。風の音に色を感じる感性は、芭蕉にも通ずる。
――長月の 空には秋の かへるらん 遠ざかりゆく 夜半の虫の音
こちらは戦国武将・武田信玄。信玄は武将でありながら歌もたくさん詠んだ。旧暦の長月は新暦の10月〜11月。季節の移り変わりに五感を澄ませている様子が伝わってくる。
渡部昇一氏は「西洋ではキリスト教の前において平等だが、日本では和歌の前において平等」と書いていた。「詠み人知らず」が『万葉集』に収められていること自体、驚く以外にない。
日本人に生まれてよかった。
(231126 第1199回)
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