晩年の秀吉と酷似
この1ヶ月間、世の中にこれほど恥しらずな人がいたのかとうんざりしている。そう、あの人である。
第一次政権のときは副大統領にマイク・ペンス氏を据えるなど、一定のバランス感覚があったが、今回は自分の意に沿わない人物はすべて排除し、周りをイエスマンで固め、まさにやりたい放題。地道な努力でさまざまな合意を築き上げてきた先人たちへのリスペクトは皆無。気に入らなければ「バカげている」の一言で一方的に破棄する。国際条約もなにもない。憲法も意に介さない。考えることは徹頭徹尾、アメリカが損をしないことと自己顕示のみ。誇大妄想におかされた独裁者のふるまいである。
とりわけウクライナのゼレンスキー大統領に対するコメントがひどい。「選挙なき独裁者」「ウクライナは戦争を始めるべきではなかった」「勝てるはずもなく、始める必要もなかった戦争に突入させた」「国民からの支持率は5%しかない」「バイデンにすり寄って多額の金を引き出すしか能がない」「ロシアは攻撃する理由がなかった。これはロシアの責任ではない」「プーチン露大統領は、望めばウクライナ全土を手に入れるだろう」など、信じられない発言のオンパレード。あたかもゼレンスキー氏がロシアを侵略しているかのような物言いだ。なんの罪もない多くのウクライナ人が死んだのはプーチンの意図によるものではないのか。これでは軍事力のない国は軍事大国のどんな要求にも唯唯諾諾と従わねばならないと言っているのと同じ。仮に日本が、中国から沖縄をよこせ九州をよこせ、ロシアから北海道をよこせと要求された場合、それに従わないのが悪いというのがトランプ氏の言い分だ。
デンマーク領グリーンランドを領有したい、カナダは合衆国の51番目の州になるべき、パレスチナ自治区ガザをアメリカが領有し住民を移動させるなど、誇大妄想はとどまるところがない。さらに連邦政府職員を大量解雇(約20万人)するのと対象的に、2001年、連邦議会占拠事件で収監された人たちには恩赦を施している。もちろん、その理由は彼らがトランプ支持者だからである。
秀吉はその晩年、誇大妄想と被害妄想が肥大化し、唐とインドを制圧し、アジアの盟主になるとの思いを抱き、2度の朝鮮出兵を行った。侵略は秀吉が死ぬまで続けられ、その結果、朝鮮半島に何十万もの日本人、朝鮮人、中国人の屍が横たわることとなった。世界は自分のものだと言わんばかりのトランプ氏はそのときの秀吉と酷似している。
国内に転じると、参政党はトランプ流を目指すと公言している。斎藤兵庫県知事再選の顛末、NHK党立花やつばさの党黒川による選挙破壊活動など、ちょっと前は考えられなかったようなことが起こっている。日本もアメリカも民主主義政治が末期症状を呈していると言わざるをえない。
やがてトランプ政権の禍根は明らかになるはずだが、そのときに後悔しても遅い。あと3年11ヶ月、首をすくめて耐え忍ぶしかないのだろうか。石破さんも大変だと思う。こんな男を「閣下」と呼ばなければならないなんてブラックジョークにもほどがある。
対話を重ね、互いの意見の違いを埋めていくことこそが民主主義の根幹だと思っていたが、どうやらそうではないようだ。
(250222 第1260回)
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