母親への最高の贈り物
母親への最高の贈り物
埼玉県比企郡川島町。なんの変哲もない、のどかな田園風景のなかに、日本建築の粋ともいえる建物がある。
遠山邸と遠山記念館。前者は日興証券(現SMBC日興証券)の創立者・遠山元一が母親のため、生家を買い戻し、2年半以上もの歳月をかけて再建した邸宅であり、後者はその一角に建てられた美術館である。もちろん、自身のコレクションを展示するための私設美術館であり、収蔵品には6点の国重要文化財が含まれている。
設計者は室岡惣七。東棟、中棟、西棟は渡り廊下でつながり、随所に一流の職人技が生きている。
庭も格調高い。選りすぐりの銘木が、整然とデザインされ、息づいている。周りに騒々しいものがないからこそ、この庭の良さが引き立つ。ここで心ゆくまで安らえば、長生きもするだろう。元一は事業に成功した後、母親にとてつもない孝行をしたのである。
いま、この美術館では「近代の日本画展」を開催している。橋本雅邦、横山大観、菱田春草、上村松園、小林古径、速水御舟など錚々たる画家の作品に目が釘づけになる。
ただ、この優雅な場所にたどり着くまでが一苦労だ。車を持っていれば造作もないが、私のように車を持っていない人は電車とバスを乗り継ぎ、バス停から20分以上歩かなければならない。天気が良ければ苦ではないが、当日は冷たい雨が降りしきっていた。バスの本数も限られており、時間帯によっては2時間も空くことがある。それでも、「本物」を見られることは得難い体験である。
畳が1枚だけ角度を変えて敷かれている。これは長沢英俊の作品「浮島」。風流だ
どの部屋も庭の借景が美しい
欄間の彫刻も凝っている
床の間にある寄せ書き。伊藤博文、勝海舟、井上馨、榎本武揚、大鳥圭介らの名前が並ぶ
小林古径作「柿」
速水御舟作「牡丹」
遠山記念館の外観
(250413 第1267回)
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