福島県はさくら県
地方自治体が観光促進のためにつくったキャッチフレーズは、たいていオヤジギャグ風で「ただの語呂合わせじゃないか」と思うことが多かった。「彩の国さいたま」「いいひといいことつぎつぎ〝とちぎ〟」「ググっと群馬」「ガタガタ言うなよ、新潟」等など、陳腐の極みである。各自治体の観光課長の好みに合わせて広告会社が制作している風景が目に浮かぶ。
「うつくしま ふくしま」もそのひとつだと思っていたが、ちゃんと中身を反映していることがわかった。
ひさしぶりに福島市の花見山公園を訪れた。桜のピークは過ぎていたが、観光客はめっぽう多い。ある酔狂な男の「思い」で始まったものが、いまやバスのピストン輸送でなければ行けない状態に。これを現代のおとぎ話と言わずしてなんと言おう。
まだ花見山が有名でなかった頃(1995年頃)、ある雑誌の記事を見て訪れたことがある。そのときは自分の車で行き、このあたりかなあと目星をつけ、近くにいた人に「すみません、ここが花見山ですか」と訊いた。
なんと! その人が阿部一郎さんだった。阿部さんは初対面の私を納屋に招き入れ、そこで花見山造成についていろいろ語ってくれた。
今回、訪れてわかったことは、花見山をつくろうと着想し、実行に移したのは一郎さんの父・伊勢次郎さんだったこと(※伊勢は姓ではなく、伊勢次郎が名前)。本欄下に造成当時の写真を掲載しているが、親子3代にわたってこの大プロジェクトに関わり、みごと桃源郷をつくりあげてしまったのである。
福島には日本三大桜のひとつ、三春の滝桜もある。しかし、それら有名な桜だけではない。車を運転して行く先々に見事な桜があるのだ。そこにもあそこにも、え? あっちにも、といった具合に。民家があるところにもないところにもりっぱな桜があるのだ。これほど多くの桜があるところは、少なくとも関東近県にはない(奈良がどうなのか詳しくは知らないが)。おそらく数十年前、思い思いの場所に桜の苗を植え、それを代々守ってきたのであろう。
香川県が「うどん県」と名乗ってから、それに追随する動きがあるが、福島県は「さくら県」と名乗っても偽りではない。
福島は旨い酒も多い。東京から1時間半くらいのところに、このような桃源郷があることがうれしい。
菜の花も満開
手前はボケ
花見山頂上から福島市街地を望む。遠方に磐梯山が見える
昭和30年頃の花見山
初代・阿部伊勢治郎。「今日もよし明日も亦よし花見山」も字が見える。養蚕業に見切りをつけ、花卉生産に変えたという。自宅前に太鼓橋までつくった風流な人
2代目・阿部一郎
現当主・阿部一夫氏
大久保神社へ向かう途中、目にした笹原川の桜。こんなふうに、あちこちに桜が舞う
(250420 第1268回)
髙久多樂の新刊『紺碧の将』発売中
https://www.compass-point.jp/book/konpeki.html
本サイトの髙久の連載記事