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紺碧の将

荒波に漕ぎ出す若者たち

2007.09.08

 数年前から毎年10時間、三友学園という食の専門学校で講義を受け持っている。

 と言っても、危惧するなかれ。べつに私が調理を教えているわけではない。威張るわけではないが、私は料理はさっぱりダメだ。何も作れないと言ってまちがいではない。ただあちらこちらと旨いものを求めて食べ歩き、ああじゃないこうじゃないこりゃうまいと評論家のごとく好きなことを言っているだけだ。

 では、専門学校で何を教えているのか? ひとことで言えば、フードコーディネーター資格取得講座の中の「食の企画」について教えているのである。

 まず、私は実践から入らない。それよりも大切なことが他にあると思うからだ。

 それは、現代の日本に生まれたことに感謝の気持ちを持たせること。料理人であれば、まず食材への感謝ということになるが、私はそれよりも前に、豊かで平和な国に生まれたことの幸運を自覚させることが大切だと考えている。好きなことを学べる、好きな仕事を目指すことができるというこの状況は偶然の産物ではなく、我々の前の世代の人たちによる、途方もない努力の積み重ねの上に築かれているということを若い人たちに知ってほしいのだ。

 まず、終戦時の荒廃から、どのようにして日本は復興したか、を簡単に説明する。加工貿易立国を目指した挙国一致の体制と教育システム、そしてその限界……。荒廃〜復興〜繁栄に続く、これからの困難な時代。今の若者たちを待ち受けているのは、まちがいなく「結果不均衡の時代」だ。つまり、頑張った人はそれなりの果実を得、頑張らなかった人はそれなりの境遇に甘んじなければいけない。いくら「格差社会はいけない」と声高に叫ぼうが、この流れを止めることはできない。

 しかし、裏を返せば、これからの時代は高学歴じゃなくても豊かな人生を送れる可能性が高い時代だとも言える。そういう時代において、人生を楽しめるようにするためには今からどのようにすればいいか…、そんなことを2〜3時間話す。こういうことって、普通の大学では教えないでしょう? だから、きちんと教えたい。

 あとの約6時間は実習。6チームに分け、3チームには「栃木の食材を県外で消費させるためには」、あとの3チームには「イタリア料理を栃木県民にもっと食べさせるためには」というテーマで実際に企画を作らせる。

 どのような食べ物を選び、どのような形にして、その良さをどのように伝えればいいのか、具体的に練り上げていく。

 最後の時間で、それぞれのチームが全員の前でプレゼンテーションをし、優劣などを含めて私がジャッジメントをする、という一連の流れで講義は終わる。

 年を追うごとに思う。ますます波高が増していく実社会において、この若者たちはどのような人生を歩むのだろうか。自分の好きなこと、得意なことを見つけ、少しでもいい人生を送ってほしいな、と。「袖振り合うも他生の縁」という諺があるが、壇上から10時間も彼ら彼女らを見ていると、自然にそういう念が沸いてくるのである。

(070908 第9回 写真は今年の受講生たち )

 

 

 

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