文化とビジネスの融合
一時期、アジアのリゾートにはまった。1995年に初めて訪れたタイのバニヤンツリーというホテルにショックを受け、以後、楽園のホテルの虜になってしまった。バリにあるアマンキラやアマンダリ、マレーシアのパンコール・ラウ、タンジョン・ジャラ、セブ島のプルクラなど、日本であくせく稼いだお金を東南アジアでせっせと落としていた時期があった。社員旅行でも、バニヤンツリー、ランカウイ島のザ・ダタイ、バリ島のリッツ・カールトン、サムイ島のバーン・タリン・ン・ガムなどに行った。
おかげで、人間どうしたら最高に気持ちよくなるのか、少しはわかったような気がした。人間、想像だけではいかんともしがたいものがある。体験したことはどんなに想像力を膨らませてもわからないものだ。しかし、あるところまで体験すると、その先は想像できそうな気がする。そういう意味では、立派な? 授業料だった。
SLHという組織(認定機関?)がある。Small Luxury Hotelの略で、要は小さな高級ホテルのことを言う。小さい=極上リゾートの必須条件という図式は言わずもがな。この場合、敷地は広くて、客室数が少ないという意味にとりたい。都市型のホテルでもスモールラグジュアリーがないわけではないが、リゾートでこそスモールの良さは生かせるのだと思う。
そのSLHが認定した日本で唯一のホテル、それが那須の二期倶楽部である。アジアのスペシャルなリゾートホテルを知っている身にも、二期倶楽部のハイセンスぶりは賞賛に値する。度肝をぬかされるようなサプライズの地形ではないが、約42,000坪という広大な敷地を、スマートに使いこなしているセンスは特筆すべき存在だと思う。
さて、『fooga』次号では、二期倶楽部オーナーの北山ひとみさんをご紹介する。
これはあくまでも推測だが、二期倶楽部が始まった当初は、そのホテルのコンセプトにオーバーラップする客層など、全国でもごくごくわずかしかいなかったにちがいない。感性という切り口で日本人をピラミッド型に表現すれば、頂点付近に位置するごくわずかな人たちだろう。彼ら彼女らを対象に、北山さんはずっと変わらぬスタンスで二期倶楽部を育んできたのだと思う。でなければ、今のように知的で静謐でハイセンスな空間になっていないはずだ。
文学に音楽に映画に美術に演劇に、そして建築にと、幅広い分野に驚くほど造詣の深い北山ひとみとはどのような人物か。これから取材、撮影と続くが、私自身も楽しみである。
(070913 第10回 写真はコンラン設計の東館に立つ北山ひとみさん )