鯛山センセイ、降臨
朝4時頃、胸が苦しくて目を覚ますと、なんと胸の上に見川鯛山先生が腰をおろしていた。
「あれ鯛山先生、いつお戻りになったんですか?」
「しばらく前だよ。それにしても相変わらず爆睡していたな」
そう言いながら鯛山先生はピョンとベッドを降りた。
「90歳近いとは思えないほど身軽ですね」
「アッチへ行ってからますます軽くなったみたいだ」
「アッチは愉しいですか?」
「いやいや。退屈でしかたがないよ。釣りもスキーもできないし、だいいちべっぴんのオネエちゃんの診察もできない」
「いつもジイちゃんバアちゃんしか診ていなかったという話でしたが」
「えー? そう言ってた?」
「は、はい」
「退屈だから高久君はどうしてんのかなと思って降りてきた。少し年寄りの茶飲み話につきあってくれや」
鯛山先生はその場にあぐらをかき、巻いていたマフラーをはずす。まだ暑い日が続くのに、アッチではマフラーが必要みたいだ。
「それにしてもなんだな。上から見ていると、今の政治家どもや経営者どものバカのコンコンチキは束にしてアッチへ拉致したいくらいだな」
「鯛山先生、いつから政治や経済に興味を持ったんですか」
「だからね、アッチは退屈なところなの。高久君ならとっくの昔に発狂して死んでるよ」
(?????)
「それにな、オレはちっとはアベってヤツに期待していたんだけど、なんだありゃ? おじいちゃん(岸信介)が地団駄踏んで悔しがっていたよ。あいつは孫じゃねえって。だいたい靖国参拝をやめた時点で終わりだ。そう思わんかタカク」
「は、はい」
「それにだな、国民もみっともねぇぞ。年金年金って、自分の御身ばっかり気にしてやがる。腐った政治家どもも金に目がくらんだ経営者どもも身勝手な国民も、アッチから見ればみんな目くそ鼻くそだ。ヘンッ!」
「鯛山先生、アッチへ行かれてから人が変わりましたね」
「そーぉ?」
「なんていうか、好戦的になったっていうか」
「だから言ったじゃないか。あっちは退屈なんだよ。オネエちゃんのスカートまくったくらいで非難されるし」
「それはコッチの世界でも同じなん……」
「それにだな、なんだ今のバカ教師どもは……」
鯛山先生はますます過激になり、私は疲れ果てて眠ってしまったのでした。
(070917 第11回 写真はありし日の鯛山先生と筆者 ※撮影/ん太郎 )