多樂スパイス
HOME > Chinoma > ブログ【多樂スパイス】 > 34年の時を超えて

ADVERTISING

私たちについて
紺碧の将

34年の時を超えて

2012.12.08

 「久しぶりだね。34年前、ジェフ・ベックといっしょの公演以来だ」

 こともあろうに、スタンリー・クラークにそうのたまい、握手を求めたのであった。

 いったい、なにが久しぶりなものか。おそらく、スタンリー・クラークはそう思ったことだろう。一方的に私がそう思っているだけで、当然のことながらスタンリーは私の存在など知るはずもない。

 それなのに、スタンリーは「Wao!」と声を発し、少し驚いた様子だった。ジェフ・ベックとの伝説的なバトルを聴いていた「生き証人」が目の前にいると思ったのかもしれない。それほどに、あのときの演奏は凄まじかった。

 その後、ツーショットとあいなった(それが右の写真)。

 

 19歳のとき、初めて武道館でのコンサートを聴いた。お目当ては3大ギタリストの一人、ジェフ・ベック。ちょうど『Wired』を発表した頃で、脂がのっていた。ヴォーカルなしのインストゥルメンタルという新境地に挑んだのは、前作の『Blow by blow』から。

 とにかく、ぶっ飛んだ。こんなカッコイイ音楽がこの世にあるのかと信じられない思いだった。まさに「Wired=金縛り」だった。とかなんとかいいながら、金縛りに遭ったことがない私は、それがどういうものかは知らないが。

 そのとき、ベーシストとして来日したのが、スタンリー・クラークであった。

 あのときの感動はいまだに忘れられない。通常、音楽は耳から入ってくるものだが、あのときは全身の毛穴から入ってくるかのような感覚に陥った。鳥肌たちっぱなしだった。

 ジェフのギターは想像通りの超絶テクニックだったが、それ以上に驚いたのが、スタンリーのベースだった。それまで、ベースといえば、リズムとハーモニーをモゴモゴと刻んでいるといった印象だったが、それを根底から覆されたのだ。

 なにしろ、スタンリーのベースは、黒人特有の横揺れリズムをともなって、巨大な塊となって迫ってくる。ちなみに、「横揺れのリズムと」はオフビートのことで、クラシックのように1拍目にアクセントをおかず、反対に弱拍の部分にアクセントをおくリズムのこと。口三味線式で言えば、「ツータッタツータッタ」という感じかな。エリック・クラプトンが「黒人に生まれたかった」と言ったらしいが、さもありなんである。日本人にはまったく馴染みのないリズムで、だからこそ革命的なショックを受けたものだ。

 また、当時、弦を親指で叩き、返す刀で弾きあげるチョッパー奏法を聴いたことがなかったので、心底から驚いた。正直、このまま死んでもいいと思った。おそらく自分に合う仕事は見つからず、愉しい人生はおくれそうもないから、このままあの世へいってもいいと思った。それくらい、圧倒的な至福と興奮をもたらしてくれた。

 あのときのとてつもない感動によってベースに興味をもち、3年くらいロックバンドを組んでいた。その後、16年ほどチェロを習ったのも、源流は武道館でのスタンリーに行き着くといっていいだろう。

 その後、スタンリーの熱心なファンだったわけではない。フュージョンというジャンルがあまり好みではなく、ずっと遠ざかっていた。

 しかし、彼がブルーノートに来ると知り、急遽、聴きに行ったのであった。

 当日のメンバーは、ジョージ・デュークを交えたカルテット。34年前、はっぴを着て、颯爽とベースを弾いていた姿とは少々異なっていたが、相変わらずカッコ良かった。

 そして私はといえば、34年前は2万人の聴衆の一人だったのに、「久しぶりだね」と握手を求める図々しさを獲得していたのだった。

 生きているといろいろなことがあるものだね。

(121208 第385回 写真はスタンリー・クラークと高久)

【記事一覧に戻る】

ADVERTISING

メンターとしての中国古典(電子書籍)

Recommend Contents

このページのトップへ