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紺碧の将

さらば156

2007.10.07

 物にこれほど思い入れを抱いていたとは我ながら驚きだった。

 長年愛用してきたアルファ156との別れに際して、心の奥底から沸々とわき上がってきた感覚を表すなら、やはり愛着という言葉以外にない。

 昨年秋に発表されたスパイダーにメロメロになり、購入してしまったことはすでに書いた。156という伴侶がありながら、ついに若い娘に手を出してしまったのだ。

 以来、会社の近くの駐車場でひとり寂しく主を待っている156を見るたび、不憫だった。うっすらと埃を被った“きなこ餅”状態の156は、身の上の不遇を嘆いているようにさえ思えた。なぜなら、イタリア車は壊れやすいという世間の評価に逆行するかのように彼女は主を困らせたりせず颯爽と走ってくれたのだ。それなのに、あんまりじゃないですか、と訴えているようでもあった。

 2000年の幕開けにやってきた彼女は、その後に始まった『fooga』の歴史と重なると言っても過言ではない。多くの運を運んできてくれた「波動の塊」だった。

 写真を見て欲しい。どう? この完璧なプロポーション。デビューから10年を経ても、まったく古くささを感じさせない。それどころか、あまたある多くのクルマたちの羨望の的であり続けている。イタ車独特の、お尻がキュンと上がったスタイルはまさに女性。それも、ラテンの気質をもった美しき諍い女だ。ワルター・デ・シルバ一世一代の大傑作と言っていい。

 アクセルを踏み込んでからのレスポンスは、むしろスパイダーよりも上で、自分の意をくんでいるかのような走りにずっと魅了されてきた。もちろん、楽器用のチューナーで創り上げたあの独特のエンジン音にも。

 それなのに手放すなどとは何事だ! と北原さんに叱られてしまうかもしれない。

 しかし、前述のように、乗ってあげられない日が多くなってしまった。もちろん、理由は私にある。おまけに最近は外出する日が多くなり、ますます哀れさを増していた。

 そんな時、私の文章を異様に好んでくれている大音剛さんという人が、アルファロメオを探しているという情報が耳に入った。

 彼なら、彼女を可愛がってくれるだろう。とっさにそう思った。

 今、彼女は新しいパートナーと巡り会い、嬉々として新しい人生を歩み始めた。

(071007 第15回 写真はアルファ156)

 

 

 

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