Think Simple
また、本の話で恐縮だが、スティーヴ・ジョブズとともに、主に広告の仕事をしていたケン・シーガルが書いた『Think Simple』がとても面白かった。
シーガルは1997年、「Think Different」キャンペーンを仕掛けた男だが、あのとき、アップル社のその広告を見たときの感動は今でも忘れられない。私にとって、あの広告に勝るものはいまだにない。それくらい、素晴らしい、筋の通った広告だった。
そして、その後のアップルは、そのコンセプト通りの歩みを続ける。
人とちがうことを考える。どれほど異端視されようと意に介さず、我が道をゆく。その結果、現在のアップルに至ったのだ。
ジョブズの「シンプルである」ということにかけての情熱は、もはや狂気ともいえるほどで、複雑さはすべて「悪」だった。組織というものは、大きくなるにつれ、複雑さを増していくものだが、それを徹底的に嫌い、排除した。
と同時に、商品開発も広告戦略もシンプルさの極致をいっていた。
ジョブズを引き合いに出すのはあまりにも傲慢だが、じつは私もシンプルが好きだ。26年も会社経営を続けていると、事務処理なども含めて、どうしても複雑にならざるをえないのだが、我が社は今でも「超」が3つつくくらいシンプルである。
まず、会議はほとんどしない。年始と夏の年2回程度。以前は月例会議を行っていたが、それがいかにムダなことかわかったから。
朝礼は皆無。日々の仕事の途中でいくらでも意思伝達ができる。
タイムカードも出勤簿もない。本来はなければダメなのだろうが、要するに労務管理が嫌いなのだ。
そもそも社則がない。就業時間はいちおう決まっているが、始まりの時間さえ守ってくれれば、あとの行動は各人のプロ意識にまかせている。休暇も本人の自由意思だ。業務日報など、無駄の極致だと思っている。あれに費やす時間、読む人の無駄な労力を考えると、よくもあんなバカらしいことをやっているものだとあきれる。
書類も最低限。税務署の人が驚いていた。
「その書類はふつう、ありますけどね」
「それがないと法律違反なんですか」
「いや、そういうことはないんですが、ふつうはありますよ」
「べつに業務に影響がないので、我が社ではありません」
という具合の会話を何度も交わしている。
第一、我が社の歴史において、「事務職」という存在は皆無なのだ。請求書などの発行は、クライアントを担当しているそれぞれが行う。
接待もしなければ(そもそも接待費がない)、つきあいゴルフもしなければ、同業者の組合みたいなものにもまったく参加していない。
売り上げ目標も設定していない。数ヶ月だけ、設定したことがあったが、あれは自社の都合を大切なクライアントに押しつけるものだと判断し、それ以降やめた。
とにかくシンプルに、本来やるべき目の前の仕事に打ち込む。それが根本中の根本だと思っている。
(130208 第401回 写真は、『Think Simple』の内表紙)