花の命を木に彫り込む
念願叶い、美術家の須田悦弘(すだ・よしひろ)氏を取材した。
木を素材に彫刻をしているが、本人は美術家を名乗っている。彫刻だけではなく、空間全体を創造する現代美術でもあるからだ。着色は、日本画の岩絵の具を用いているので、日本画家の要素があるとも言えるだろう。
モチーフは花や雑草のみ。しかも、すべて原寸大だ。原寸大と言えば、以前紹介した画家の野村陽子氏とも重なる。
なんといっても驚嘆させられるのは、木を彫っているにもかかわらず、きわめてリアルに花の形や色を再現しているということ。あらためて言うまでもないが、自然の花びらや葉は、型にはめてプレスしたような一定の形ではない。その三次曲面は〝神のみぞ知る〟の神業。それらを忠実に再現しているのだから、驚くというか呆れるというか。薄いところは光が透けるというほどの薄さだ。おそらく0.01ミリの世界だろう。
展示の仕方がまた洒落ている。広い空間の壁にチューリップが一本とか、展示室の片隅に座っている監視役の足下に生えているかのような雑草とか、とにかく「どうだ! この作品を見てくれ!」という通常の作品展示とは真逆のスタイル。
初めて作品を買ってくれたのがドイツ人だったということからもわかるように、海外での評価も高く、個展は世界のあちこち、それこそバングラデシュのような国でも行われている。
以前、金属を素材にして枯れた花を表現しているモリソン小林氏を紹介したこともあるが、私は植物をモチーフにしている作家が好きだ。植物はつぶさに見れば見るほど、造形も色もあまりに美しく、どうしてこのようなものがこの世にあるのか不思議で仕方がなくなるのだが、その美しさを表現することに挑んでいる人は、すでにその時点でシンパシーを感じざるをえない。
次号で須田氏の魅力をお伝えしたい。
(130829 第449回 写真上は、須田悦弘氏と。場所は銀座1丁目のギャラリー小柳。下はアサガオをモチーフにした作品。ちなみに、須田氏が白く、私が黒いのは照明のせいです)