いいものをたくさん見なさい
「世界でもっとも僻地にある美術館」とも言われているMIHO MUSEUMへ行った。
琵琶湖の南、信楽にほど近い湖南アルプスの山中に立つ、じつに個性的な美術館だ。
この美術館の存在は、川端康成と安田靫彦の交流を描いた『大和し美し』という本で知った。上空から写したこの美術館の外観があまりにも素敵だった。周囲は深い森。そのなかに抱かれるように存在するMIHO MUSEUMは、しっかりと私の脳裏に刻まれた。
そして、京都での取材が終わった後、丸一日費やして往復してきたのである。
ところで、先の台風の影響で信楽のバスが運休していた。さて、どのようにして現地に足を運ぼうかと思いあぐねていると、京都駅から直通バスが出ていることがわかった。一日一往復、4,000円也。
この美術館の特長は、レセプション棟と美術館棟が離れていることだ。徒歩で約7分。途中、けっこう長いトンネルを抜ける。
設計は、I・M・ペイ。ルーブル美術館のガラスのピラミッドを設計した人だ。万に一つもひどい仕事をすることはないだろう。
案の定、素晴らしい建築だった。収蔵作品、展示作品も悪くはなかったが、建築が最高の見せ場だった。
なかに、この美術館の創設者である小山美秀子(こやま・みほこ)氏の言葉が掲げられていた。
〝いいものは沢山見ないとだめよ。二流、三流はだめ。一流品を沢山見なさい。そしたらだんだん目がわかってくるから〟
その通りだと思う。粗悪な物、まがい物ばかり見ていると、目もそのようになっていく。しかし、いい物、美しい物を見続けていると、一流のなんたるかがわかるようになってくる。審美眼はいい物をたくさん見ることで磨かれるのだと思う。さすがにこれだけの美術館をつくる人はいいこと言うなあと感嘆したのだが、エントランスから外の森を見ていたとき、ある不自然な光景が目に飛び込んできた。深い森のなかに、ポツンと大きな建物が見えたのだ。まるで清潔な白いシーツについたシミのように違和感があった。スタッフに聞けば、その美術館の経営母体となっている宗教団体の礼拝場だという。
そうだったのかと愕然とした。たとえ経営母体が宗教団体だろうと、いい美術館をつくってくれたのだからそれはそれでいいのだが、一方で、なぜ人の心を救うのが目的であるはずの宗教に、あのように威を誇るような巨大な礼拝堂が必要なのかわからない。資金の多くは信者からの布施であろう。資金力のある大企業しかつくれないような巨大な建物が、果たして宗教に必要なのだろうか。
ただ、世の中というものはそういうものなのかも、とも思う。バチカンのサンピエトロ大聖堂をはじめ、世界には威を誇る宗教施設がごまんとある。中には政治団体をつくって政治の世界に口を出している宗教団体もある。
なにが信じられて、なにが信じられないのか、結局、結論を出すのは自分だ。そのためにこそ、日々の学びがあるのだと思う。
(131201 第470回)