緑の庭
仕事柄、いろいろな案内が届く。美術展、コンサート、政治集会、企業セミナー、各種展覧会のレセプション……。その都度、顔を出していたら、仕事が捗らなくなってしまうので大半はパスするのだが、先日、ひと目見るなり、興味をそそられた展覧会があった。
11人の若い女性画家によるグループ展だ。案内のパンフレットに掲載されていた作品に釘付けになった。風に草がなびいている絵だ。「本物を見てみたい」と思った。会場を見ると、大阪駅前のデパートとある。
大阪の友人と会う用事をつくり、展覧会場へ行った。目指す絵は、すぐに見つかった。それが右上の作品『緑の庭』だ。B5判ほどの小ぶりなサイズなので、なんとか手の届く範囲だ。私が熱心にその絵を見ていると、作家本人が説明にきた。デパートの美術画廊でグループ展ということもあり、売らなければならないのだろう。でも、明らかにセールストーク(?)は板についていなかった。それがまた好感をもつ理由でもあった。
将来を期するという気持ちを込めて、その作品を購入した。油彩とテンペラを併用したその作品は、まさしく風を感じさせてくれる。作者の名前はあえて伏せておこう。
「風を描きたいと思ったんです」
若い画家はそう言った。
そうかあ、目に見えないものをよくぞ描こうと思ったね、と答えた。
「少し、空想も交じっています」
恥ずかしそうに彼女は言った。
それはそうだろうね。それにしても、描き方が変わっているね。
「……」
それ以上は説明ができない様子だった。
風を描きたいと思う心境は、実際、どんなものだろうと思った。明らかにモチーフとして地味である。もっと派手な作品はいくつもあった。だからなのだろう、その人の作品に赤い札はほとんどなかった。でも、私は他の人の作品より、その作品の方が断然いいと思った。
後日、送られてきた絵は、現在、書斎の壁に飾っている。ちょうどパソコンの上だ。場所もとらないし、あまり存在感を主張しない。にもかかわらず、いい感じだ。ちょっと息抜きしようかなと思って上に目をやると、その絵が目に入る。そして、爽やかな涼風を感じさせてくれる。
人間はなぜ、絵を描くのだろう。絵を見たいと思うのだろう。
(140728 第515回)