人間の体はだれが設計したのか
滅多に風邪などひかないが、久しぶりに風邪をひいた。「ヤバイ!」と思ったら即対応し、なるべく悪化させないようにしている。そのため、仮に風邪をひいたとしても「3合目」あたりで退散させることができるのだが、今回は想像以上に攻め込まれ、「8合目」くらいまで侵入を許してしまった。
ちょうど一週間前、会社にいたときだ。「寒い!」と思った。自慢ではないが、我が社の暖房はあまり効かない。そのため、スタッフたちはめいめいにコンパクトな暖房機を抱えながら仕事をしているが、たまにしか出社しない私の分はない。
その日の夕方、熱が上がり始め、翌日は38度を超えた。温かくして休んでいればそのうち下がるだろうと高をくくっていたのだが、夕方になっても下がらない。38.5度を越え、意識が朦朧としてきた。それでも自分が主宰している塾の講義を休むわけにはいかない。目をうつろにしながら強行したのだが、それも災いしたのだろう。翌日はさらに悪化した。
薬は飲まない。体はゆえあって熱を上げている。せっかくそこまでしてくれているのに、不自然に熱を下げるのはよくないと思っているからだ。
運動によって基礎体力がついたのか、それだけ高熱が続いても、ずっと「寝たきり」にはならなかった。ちょっと仕事をしてはたっぷり休み〜ということを繰り返し、熱が下がるのを待った。
熱が下がったその日の夜、生まれて初めて金縛りに遭った。意識が冴え冴えとし、体は疲弊していた。恐怖に身がすくんだ。「これが、あの金縛りか」と初体験に顔を赤らめた(なんで?)。
人間の体はすごい! と思ったのは、熱がひいた後だ。失った体力を回復するために、栄養をつけるべきだとほとんどの栄養士は言うだろう。しかし、そうではないということを体が身をもって教えてくれている。味覚がおかしいのだ。甘味をはじめ、いろいろな味覚が減退し、変わって苦味だけが異様に残っている。つまり、何を食べても苦い。これはつまり、「まだ内臓の受け容れ態勢ができていないから食べないで」と体が教えてくれているのだ。その証拠に、徐々に体が回復するにつれて、味覚も戻ってきた。
先日、したり顔で「毎日水を2リットル飲みなさい」という自称・栄養の専門家がテレビに出ていた。
なぜ、2リットル? 夏と冬では同じわけがないし、そもそも住んでいる地域や年齢、体格、食生活など、条件はまちまちのはずだ。それなのに、人間と機械を同じように見て、数値で管理するのが彼らの基本のようだ。
それよりも、じっと耳を澄ませて、自分の体が教えてくれていることを聞き取った方がいい。
薬に頼らなかったのも正解。風邪の菌をやっつけるのと同時に、熱によってさまざまなものがデトックスされたようだ。
(141124 第532回 写真上は新宿御苑の風景。本文とはまったく関係がないが、秋の風景はことのほか美しい)