からくり人形師から〜全身全霊で打ち込むということ
生産拠点の多くが海外に移転したとはいえ、やはり日本の経済力の源は「物づくり」だろう。それがベースにあって、その他の業界も栄えている。
そんなことを改めて認識させられたのが、『Japanst』第26号でもご紹介した「からくり人形」だ。
からくり人形師・半屋弘蔵さんに神楽サロンで実演会をやっていただいた。からくり人形はどのような来歴があって、どのような仕組みで動くのか、あるいは戦後日本の製造業に与えた影響など、多方面にわたる解説とともに、間近でその軽妙な動きを見ることができた。
実は、からくり人形は明治になって途絶えてしまったという。明治の指導者から見れば、西洋の先進的な技術と比べていかにも稚拙に映っただろうし、後継を希望する人もなく、文献も消失してしまった。
ところが、江戸時代の文献が発見されたことにより、からくり人形が復活し、それにともなってからくり人形に魅せられる人がポツポツと現れた。半屋さんもその一人だ。当時、自動車メーカーのエンジニアとして、それなりの地位と収入を得ていたが、「一念発起」というか、いちかばちか断崖からダイビングをして、修業を始めたのだ。もちろん、収入のアテはない。
家族もよく我慢したと思う。
結局、半屋さんは志を遂げ、今ではからくり人形の製作をする傍ら、全国を飛び回って、その魅力を子供たちに伝えている。9月の多樂塾でも実演をしていただく予定だ。
つくづく思う。人の生き方で、もっとも輝いて見えるのは、一見すると無謀なことでも、自分を信じて挑戦し続けることではないか、と。
先が見えてしまうような生き方はつまらない。どの道、人は老いて、死ぬ。これは万人が避けられない厳粛な宿命だ。であれば、「いかに生きたか」だろう。その大切さをこの「からくりオジサン」は身をもって教えてくれている。
全身全霊をもって何ごとかに打ち込む……。そういうものを死ぬまでもち続けたいものだ。
(150830 第575回 写真はからくり人形を実演する半屋弘蔵さん)