少しずつ進化する
『Japanist』の第31号が仕上がった。
表紙を飾っているのは、「ジャパニストの美術散歩」でも紹介している日本画家の平松礼二氏。『文藝春秋』の表紙を12年も務めた方だから、美術に興味のない人も知っているかもしれない。
若い頃のある時期を除き、ずっと在野を貫いている。団体に属さず、徒手空拳で勝負しているということだ。それだけでも〝私好み〟だが、作品も素晴らしいのひとこと。日本画の伝統を踏まえたうえで、独自のスタイルを構築している。これは簡単にはできないことだ。喩えていえば、野球選手が自分の体にピッタリのピッチングフォームやバッティングフォームを完成させたことと同じ。たゆまぬ努力と創意工夫がなければ、とうてい到達することはない。
その作品に触発されて、ひとつの試みをした。それが右上の写真。表紙と裏表紙を一枚の絵でパッケージングした。これは裏表紙に広告を掲載しない(できない?)、あるいは編集会議にかける必要がないからこそ実現できたこと。ちなみに、本誌のための編集会議をしたことが一度もない。
巻頭対談のゲストは、漫画家の弘兼憲史氏。あの「島耕作」シリーズの作者である。漫画家を志して以来、どのような変遷をたどって現在の状況に至ったのかがわかる。私は積極的に漫画を読むことはしないが、弘兼氏の作品はリアリズムがあって面白い。国際ビジネスやその背後にある政治の動きも架空の物語とは思えない。思想的にも『Japanist』にバッチリ合った方だ。
「じぶん創造物語」では、ギャラリー「銀座一穂堂」のオーナーである青野惠子氏を取材。幼少の頃から美しいものが大好きで、今はさまざまなアーティストの発掘に努めている。本誌30号で紹介した写真家の若杉憲司氏も青野氏の目に叶った作家だ。
第2号から30回連載してきた「旨い純米酒を求めて」は今回で最終回。これまで取材してきてわかったことを、私と中田宏さんで〝純米酒を飲みながら〟語っている。いい体験を語り合うというのも至福の時である。
信念をもって酒造りをしている酒蔵ばかり訪ね歩いたが、いい結果を出すにはそれなりの理由がある。全体的には凋落傾向のある日本酒業界だが、経営努力をしているところは確実にファンを増やしている。その秘訣をまとめてみた。
その他の記事も加えて、本誌は着実に進化していると自負している。
(161025 第674回)