植物の驚くべき能力
今年の正月、『植物の神秘生活』(P・トムプキンズ+C・バード著)という大著を読んだ。
実はこの本、一昨年亡くなられた師・内海隆一郎先生からお借りしているものだ。
ある時、植物の話題になり、先生はおもむろに書棚からこの本を取り出し、「高久さん、この本、読んだことありますか」とおっしゃった。
見たこともない表紙だった。「いいえ」と答えると、
「それならぜひお読みなさい」と渡してくれた。
「では、なるべく早く読んでお返しします」と言うと、
「いいえ、返してもらわなくてけっこうです。ずっとお貸しします」とおっしゃった。
それから1年ちょっとで先生はあの世へ行かれた。
形見分けだったのだろうか。以来、そう思うようになった。
そんなわけで、この本は死ぬまでお借りしているつもりである。近くに置いておくだけで、見守ってもらっているような気がする。
ところで、この本、植物の驚くべき能力の話が満載である。ひょんなことから植物の能力に気づいたCIAのウソ発見器技術者、クリーヴ・バクスターの実験をはじめ、さまざまな人による実験や調査の内容が書かれている。
これを読んでわかったことは、植物は「なんでも知っている」ということ。動かないで、じいーっとわれわれの動きを見ている。いや、見ているだけでなく、心の中まですべてお見通しだ。
レールスという人が語っている。
「リンゴはなぜ落ちるかをニュートンは説明した。少なくても、説明したとかつては思われた。しかし、リンゴがなぜそこまで高く上がったかという、落下現象と相関関係にありながら遙かに難しい問題を説明することは、ニュートンにはまったく思いつきもしなかった」
その通りだと思う。アメリカスギは90メートル以上も樹液を吸い上げるが、人間が設計した最良の汲み上げポンプでさえその10分の1以下の高さしか吸い上げられないことを思えば、植物の営みは実に不思議である。
この本を読んで得たことは、植物を見るたび、やみくもに感謝するようになったこと。彼らはなに食わぬ顔で元素を変成し、人間をはじめ、その他の生き物がこの惑星で生きていけるよう、手を貸してくれている。
——自然は受け身で受容力のある人にのみ、その真理を伝授してくれる。
(170119 第694回 写真上は『植物の神秘生活』の表紙、下は新宿御苑のツバキ)