多樂スパイス
HOME > Chinoma > ブログ【多樂スパイス】 > 「汚」から「美」へ

ADVERTISING

私たちについて
紺碧の将

「汚」から「美」へ

2017.09.25

 ググッとグンマ第4弾。

 今まで、尾瀬に行ったことがなかった。行こうとしても、悪天候に見舞われるなど、なんとなく縁がなかったのだ。今回の赤城山登山に乗じて、尾瀬を歩いてみようと思い、2泊目は尾瀬の手前にある湯本の旅館を予約した。

 ナビに導かれて行った先で、呼吸が止まった。

「えー!!! ここに泊まるの?」

 ネットで予約した時は、「それなり」の雰囲気を醸していたが、これではただの民宿ではないか。

 玄関先に、「歓迎 髙久様」と黒い板に書かれた白い文字を発見して、目まいがしそうになった。さらに館内は雑然の極みだった。いろいろな物が所狭しと置いてあり、クマやシカの剥製が壁から首を出し、ド素人の油絵が「どうだ!」と言わんばかりに掛かっている。壁という壁は張り紙だらけだ。

 部屋に案内され、さらに愕然とした。入口の横に「髙久様」と書かれたB4くらいの紙が貼ってあるのだ。「これ、剥がしますよ」と言って素早く剥がしたのは言うまでもない。いったいどういうセンスをしているのか? ここはまだ昭和40年なのか?

 そんなわけだから、部屋の中は推して知るべし。動かなくなった置き型の暖房機と古色蒼然としたシャンデリアが哀れを誘う。

 でも露天風呂がある、と自分に言い聞かせた。ネットの写真では、「それなり」に優雅な露天風呂だったからだ。しかし、驚いた。ここも雑然としているのだ。青いビニールシートがグチャグチャになってそのへんに置いてある。掃除もあまりしていないのだろう。床には埃が溜まり、湯船の底はヌルヌルしていた。

 悪夢にうなされた夜が明け、外を見ると、やはり雨。私は尾瀬に縁がないようだ。

 しかたなく、丸沼へ向かう。日光白根山の麓にある、大きな沼である。

 私はけっこうここが好きだ。予想にたがわず、霧雨にけぶる丸沼は美しかった。木立の中を抜けて行くと、沼(と言っても湖くらいの大きさがある)が開ける。

 数人の釣り人がいた。ほとんど音のない静かな世界に身を置き、黙々と釣り糸を垂れている。渓流釣りではないが、『マクリーンの川』(映画 A River Runs Through Itの原作)を再読したくなった。そういえば、弊社の〝釣り野郎〟大賀孝が、23年目の悲願を達成した。見てやってください。

http://www.jbnbc.jp/_JB2017/view_result.php?t_id=10150&page=pattern

 

 その後、金精峠を抜け、奥日光へ。「明治の館」で昼食をとったが、ここが思いの外よかった。今までは「観光地によくあるパターンだよなあ」という印象だった。ロケーションも建物も申し分ない。しかし、ハヤシライスとかハンバーグなど、ありきたりのメニューしかなかった。

 料理人が替わったのか、多彩なメニューがある。私は「虹鱒のムニエル」を食べたが、これがまた泣かせる逸品だった。まるごと一尾使っている。小麦粉のまぶし具合や控えめなバターなど、素材の味を引き出している。外はカリッと、中は柔らかく……焼き具合が絶妙だ。虹鱒に合うソースを考え抜いたのだろう。淡泊な肉の味を補う、みごとなマリアージュだった。食後のデザートの濃厚チーズケーキも絶品。あの悪夢のような宿で脳ミソにカビが生えてきそうだったが、救われた思いだ。

 これからはネットの写真に騙されないようにしよう。

(170925 第754回 写真上は丸沼で釣りをする人。下は日光の「明治の館」)

【記事一覧に戻る】

ADVERTISING

メンターとしての中国古典(電子書籍)

Recommend Contents

このページのトップへ