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紺碧の将

「煙が出る前に始末しろ」

2019.07.02

 いろいろな城を訪れたが、新幹線の駅から最も近い城といえば、福山城である。なんとホームを降りたら、目の前に天守閣がそびえている。

 福山城は、1615年の「一国一城令」発布後に築城が始められ、22年に完成した。江戸幕府が開かれ、すでに社会は安定期に入った頃、なぜ新しい城が必要だったのだろうか。

 西の毛利への備えである。つまり、徳川は毛利を信じていなかったのだ。いつ反旗を翻すことかと。その杞憂ははるか後の時代、幕末に形となるのだが……。

 いずれにしても、そのような理由で福山城は築城され、家康の従兄弟である水野勝成が城主となった。

 家康は1616年に死去しているが、将軍の座を秀忠に譲ったとはいえ、死ぬまでかなりの実権を握っていたはずだ。関ヶ原以降の家康政治の特長は、「煙が出る前に始末しろ」である。なんら疑わしくなくとも、将来、少しでも脅威になりそうなタネはことごとく摘み取った。関ヶ原で重要な役割を果たした秀吉恩顧の大名(福島正則や加藤清正ら)を外様にし、その後、難癖をつけて改易している。

 病的ともいえるほど疑り深い。その傾向は秀忠や家光も受け継いでいる。つまり、江戸幕府は「煙が出る前に始末しろ」という政策が徹底されたともいえる。それが功を奏して、260余年、ほぼ戦乱のない世を築いたが、一方で、かなり不自由な時代であったことは否めない。

 さて、現在の福山城である。空襲によって天守閣などが消失したため、復元工事がなされたが、特筆すべきは駅前の再開発に伴って壊されることになっていた遺構の保存を市民が訴え、今では保存する方向で都市計画が進められているという。

 当然だろう。わが街の歴史を物語る遺構を壊し、そのかわりに「便利さ・経済成長」だけを求めようとするなど言語道断。愚か者の所業である。

 日本中、ほとんどの都市に城がある。それをどのように保存するのか、そこにその地域の民度が現れているといっても過言ではない。

 

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(190703 第913回)

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