ダ・ヴィンチ発、18世紀の会津行き
会津に、つい笑ってしまうほど面白いお堂がある。その名も「さざえ堂」。さざえの形に似ているからそう呼ばれているが、正式には円通三匝堂(えんつうさんそうどう)という。高さ16.5メートルの六角三層建築だ。白虎隊の自刃で有名な飯盛山にある。
なにがユニークかって、世にも珍しいらせん階段の二重構造になっている。らせん階段は珍しくないが、上りと下りが別々になっている二重構造は珍しい。堂内がすべて一方通行になっており、上る人と下る人がすれ違うことはない。
調べてみると、フランスはロワール地方にあるシャンボール城にも同様の階段があるという。10年以上前、その城を訪れているが、覚えていない。なんと、その階段の設計はダ・ヴィンチではないかと言われている。ダ・ヴィンチのスケッチに二重構造のらせん階段が描かれているのだ。
シャンボール城の築城は16世紀。なぜ、18世紀の日本にその技術が伝えられたかといえば、蘭画家の佐竹義敦が17世紀にロンドンで出版された『実用透視画法』に掲載されていたダ・ヴィンチのスケッチを模写し、それが会津のさざえ堂に応用されたのではないかと推測されている。真偽のほどはともかく、1796(寛永8)年に日本で建立されたお堂の内部が二重構造のらせん階段になっているのは事実である。
堂に入り、右回りに上っていく。「らせん階段」と書いたが、正確には階段ではなくスロープだ。滑り止めとして、ほどよい間隔で杭が打ち付けられている。天井まで上ると、あとは左回りのスロープを下るという構造だ。堂を出て全体を眺めても、いまいちその構造がわかりにくい。狐に化かされたような感覚に陥る。いったい、だれが造ったのか? 残念ながら、その記録はないようだ。
ふと思った。巻貝の形を模したニューヨークのグッゲンハイム美術館はフランク・ロイド・ライトの名作だが、二重構造のらせんスロープにしたら思白かっただろうな、と。おそらく、フランク・ロイド・ライトはシャンボール城の二重構造らせん階段を知っていたはずだが、それを応用していれば、よりユニークで実用的であったと思う。
それにしても、我が同胞のコピー能力には脱帽である。
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(191007 第937回)