不死身の大イチョウ
ちょうど1年前、思い立って「日本再見の旅」を始めた。それ以前から、還暦を機に車で日本一周をしようと思っていた。しかし、仕事に影響するのと、いっぺんに日本を一周したとして自己満足に過ぎないのではないかと思い直した。それより、行く時期をずらし、事前に行き先の情報を丹念に集め、自分の基準で日本のいいところを再発見し、文章にしよう、と。
以来、沖縄、宮崎、山梨、奈良、広島、島根、鳥取、岡山、長野、静岡、福島を訪れた。その多くは本ブログでも紹介している。
なるほど日本にはまだまだ有形無形の観光資源、文化財があるのだと再認識している。
ふと、足元を見つめてみようと思った。外へ出向くのもいいが、まずはふだん暮らしている東京の「いいところ」を見直してみよう、と。考えるまでもなく、東京は歴史遺産も新しいものも凝縮している。足元を見つめ直すのも一種の「生活の軽妙化」かもしれない。
麻布に善福寺という古刹がある。天長元(824)年、空海によって開山された。開山とあるように、この一帯は麻布山とも呼ばれ、高台になっている。鎌倉時代、親鸞の人徳に魅了された住職が浄土真宗に改宗した。
この寺に「逆さイチョウ」と呼ばれる大イチョウが鎮座している。親鸞が持っていた杖を土に刺したところ、根付いて枝葉を伸ばしたといういわれがある(ほんとうかな?)。それはともかく、樹齢750年、樹高20メートル、幹周り10メートルという巨樹だ。
戦争当時、このあたりは激しい空襲をうけ、焼夷弾によって焼け果たというが、この巨樹は朽ち果てることなく生き抜き、今に勇姿をさらしている。焼けただれた跡が生々しく残っている。枝から多くの気根が伸び、地面に到達して根付いている様子は、まさに〝垂乳根〟。まるでおばあちゃんのオッパイのようである。
すごいなあと思う。戦争の生き証人は、われわれ現代人が見ていないものをたくさん見てきた。それだけでもすごい。自ずとこうべが垂れる。
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