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紺碧の将

さらば、スパイダー

2019.11.24

 2007年4月にやってきたスパイダー、アルファロメオのオープン2シーターは、12年半以上、私の脚となって軽快に動いてくれた。イタリア車は壊れるという定説を覆し、ほとんど故障らしい故障もないまま、走ってくれた。マニュアル車だからか、走るほど乗り手のクセに馴染んできた。近年は以前に増して燃費が良くなったほどだ。

 しかし、ついに彼女と別れる日がやってきた。

 いつかはこうしなければいけない思っていた。東京に住まいを得てから10年近く、家族全員で引っ越してきてから6年半が経つ。その間、スパイダーの出番は極端に少なくなり、最近は月に2回ていど。人間の筋肉も使わなければ衰えていくように、機械も同様。これではいけないと思っていた。まして、駐車料金もバカにならない。

 これも「生活の軽妙化」なのだろうか。ふんぎりがついた。スパイダーの前に乗っていたアルファロメオ156をいまだに可愛がってくれている友人が引き取ってくれることになった。彼以上の嫁ぎ先はいない。知らないところで、知らない人に乗られるより、はるかに安心だ。

 なんなのだろう、この感覚は。機械なのに、生き物のよう。こういう感懐を覚えさせてくれる自動車はほかにあるのだろうか。

 スパイダーは車であって、工業製品を超えている。美術品といってもいい。ベースモデルの159はジウジアーロがデザインし、オープンモデルのスパイダーをピニンファリーナが手掛けた。ボディの横には、誇らしげに「Pininfarina」のエンブレムがついている。

 彼女をひとことで言い表せば、官能的。お尻のキュッと上がったライン、グラマラスな塊り感、それでいて全体に均整のとれたプロポーション、すべてが官能的といっていい。内装は、ベンガラの混じった赤の革。計器パネルはチタン。その配色がなんとも艶っぽい。

 こいつを駆って、遠くは青森まで行った。アルファロメオはエンジン音を楽器のチューナーを使って調整すると聞いたが、さもありなん。なんとも心地良い音を鳴らす。加速もコーナリングも申し分なし。マニュアルゆえ、渋滞にハマると難渋したが、それもご愛嬌。ハードディスクには何枚のCDが入っているかわからないが、愛聴盤ばかりである。

 そういえば、私の著書をたくさん読んでくれている友人が、勢い余ってジュリエッタを購入した。私の生き方や価値観に共感してくれたようだが、その私がスパイダーを手放すことになり、ある種の後ろめたさを感じている。

 今年はやはり節目の年なのだろう。これまでに培ってきたものをまとめた著書を上梓し、10年間発行してきた『Japanist』の発行にピリオドをうち、20年間ともに生きてきたうーにゃんが死に、4月には60歳になり、8月に「じぶん創造大学」をつくり(これは少々説明が要るだろうな)、そして12年以上二人三脚だったスパイダーに別れを告げる。

 来年は新しい胎動が起こりそうだ。

 

 Mさん、ごめんなさい。そして、大音君、思う存分可愛がってあげてください。

 

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