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紺碧の将

翔んで埼玉へ

2020.02.12

 取材のため、埼玉県行田市を訪れた。埼玉とは言っても北部、赤城山のからっ風が吹き渡る、だだっ広い平野部である。

 それと前後して、テレビ初放映の「翔んで埼玉」を見た。あまりのくだらなさに唸り、笑った。じつは私はナンセンスものが好きなのである。子供の頃は「巨人の星」や「あしたのジョー」よりタイムボカンシリーズとか「天才バカボン」のほうが好きだった。どうも真面目くさったものには抵抗がある。真面目くさったものでも突き刺さってくるのは、超弩級の本物だけ。

 

 新宿から湘南新宿ラインで熊谷へ。そこから秩父線に乗り換えようと改札を通り過ぎるとき、駅員から「スイカでは入れません。切符を買ってください」と言われた。

 えー!!!!! いまどきスイカが使えない路線もあるのか。これが埼玉の底力か、と栃木出身のくせに思った。話は飛ぶが、かつて東京から下等民として虐げられ、通行手形がないと東京に入れなかった埼玉県人。ときどき調査員が特殊な光線を当て、額に「さ」の字が現れると埼玉県人だとわかってしまい、摘発されるという時代があった(そうな)。

 その頃、埼玉県人と千葉県人は、虐げられている者同士で争っていた。千葉に拉致された埼玉県人は鼻の穴にピーナツを詰められ、千葉の海岸で地引網の強制労働をされていた(そうな)。

 そんな時代、埼玉に出稼ぎに来ていたのが栃木県人。思わず吹き出した。なんと壮大な、そしてナンセンスな話であることか!

 

 秩父線の話であった。

発車寸前の車両に乗り込んで驚いた。天井がこんな感じなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いちばん後ろの車両に乗ったが、こんな風景が広がっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武州荒木駅に降り、秩父線の車両にサヨナラを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

線路を渡ってまたまた驚かされた。駅名が大きく墨書されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかも、駅員が面倒くさいのか、切符を入れる箱まで設置されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駅舎の前には月極の自転車置場があり、「○○様」と手書きで書かれた紙が貼ってあった。

「いったい、どこなんだ、ここは!」

 ワクワクしてきた。

 宇宙物理学者の佐治晴夫氏の『宇宙のカケラ』にこういうくだりがあった。

 ――私たちのように「心」をもっている生き物にとっては、環境に慣れ親しむことが、種としての進化にブレーキをかけてしまうことになりますから、時折環境を変えて身も心もリフレッシュすることが必要になります。

 そこで佐治氏は旅をしたり、新しいことに挑戦したり、会ったことのない人に会うなどを推奨しているが、なるほどと思う。

 ルーティンはとても大切だが、自分の生活と「馴れ合い」になってはいけない。翔んで埼玉の取材行から翔んだ話に落ち着いた。これにて一件落着。

 ところで「翔んで埼玉」は関東圏以外の人が見ても面白いのだろうか。浦和と大宮の口論など、事情を知っている者は笑えるのだが……。

 

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