激動の時代の生き証人
明治神宮本殿のすぐ近くに驚くべき樹がある。近くで葉っぱをさらっていたおじさんに聞けば、間違いなく椎ノ木だという。
根本に注目。瘤が幾重にもつき、異様を呈している。人面に見えるところもある。以前、秋田県の「あがりこ大王」(ブナ)を尋ねたことがあるが、太い幹は瘤だらけで、なにやらこの世のものとは思えなかった。地元の人々が薪にするため枝を伐採し、それが瘤になったと聞いた。
では、この椎ノ木はなぜこういう姿になったのか。日本人から崇敬を集める神社の本殿のすぐ近くに生えているのだから、誰かが枝を伐ったということはないはず。空襲を受けたわけでもない。
見れば見るほど、疑問が増す。
思えば、明治神宮の創建は大正9(1920)年。3年後の関東大震災をはじめ、昭和恐慌、大東亜戦争と、それまで日本史になかった困難を幾度も乗り越えている。いわば、この椎ノ木は激動の昭和を見守ってきた生き証人でもある。
境内に明治天皇の御製と昭憲皇太后の御歌が掲げられている。
いそのかみ 古きためしを たづねつつ 新しき世の こともさだめむ
(わが国の古来より伝わる先例のもとつ心を探りながら、新しき時代のさまざまなことも定めてゆこう)
まさしく松尾芭蕉の説く「不易流行」の精神そのものだ。
しかし、明治天皇が直面することになるのは、欧米列強の侵略をはじめ、過酷な事態ばかりだった。当時、すでに天皇の政治における決定権がなかった時代、明治天皇の苦悩はいかばかりだったか。神となられたあとのこの国の危難をどう受け止めておられたか。
この椎ノ木を見ると、さまざまな想念が湧いてくる。
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(200428 第988回)