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紺碧の将

旨いラーメンとの邂逅

2020.11.05

 佐野ラーメンが好きな私が、東京で美味しいと思えるラーメンに出会えるとは思っていなかった。

 特別ラーメンが好きなわけではないが、ときどき無性に食べたくなる。しかし、食べたあとは必ず「やめとけばよかった」と後悔する。とりわけ行列のできている〝いまどき〟のラーメンはいけない。そんなわけで、「行列ができる」=「不味い」という図式ができてしまった。そういう店はたいがいゴテゴテのスープで麺は腰がなく、どんな化学調味料が入っているかわからない。半分も食べると、体が「もう要らない」とメッセージを発信してくる。次の日まで腹がもたれ、パワーが半減する。

 ところが、ついに見つけたのだ。旨いラーメン屋を。

 南新宿の「楢製麺」がそれ。

 この店のコンセプトは、「化学調味料不使用」「無添加」「打ちたて」「切りたて」「無塩、無かんすい麺」。つまり、余分なものはいっさい加えず、手間暇かけているラーメンを売りにしている。それだけに、食べたあともまったく違和感がない。むしろ、元気になる稀なラーメンだ。

 加えて、店内が洒落ている。ラーメン屋は昔ながらの雑然とした雰囲気がいいという人が多いが、旨ければそれでもいいが、そういう店の大半はいろいろな化学調味料をふんだんに使い、味を加工している場合が多い。そういうものが好きな人もいるだろうが、私の好みではない。

 その点、楢製麺はモダンなU字型のバーカウンター風で、テーブルが散らからないよう引き出しに箸や紙おしぼりが収納されている。席数は7席と少ないが、この〝こじんまり感〟もいい。

 

 盛り付けのアイキャッチビジュアルは、鹿児島県産の真竹を和出汁で薄味に仕上げたタケノコを中央に「どうだ!」と置く姿。かなり絵心がある。

 この店のラーメンがあまりに旨いため、どうしてなのか調べた。余計な化学調味料を入れていない、天然塩の旨みが沁みるスープもさることながら、麺が決め手だとわかった。

 そこで、「無かんすい」という言葉に注目。

 かんすいってなんだ? 

 楢製麺はかんすいを使用していないと謳っているが、中華麺には必ずかんすいが入っている。かんすいの原材料は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの食品添加物で、これが小麦粉のタンパク質(グルテン)に作用して中華麺らしい腰を生むという。ちなみに、うどんには入っていない。たしかにラーメンとうどんの食感は違う。つまり、この店では、ラーメンの麺らしくしないことによって美味しいラーメンを作った。

 よくあるような、豚骨ゴテゴテギトギトスープの、腰のない麺が好きな人には物足りなく感じるだろう。しかし、この味なら高級会席料理の〆に供してもおかしくはない。そういうラーメンを求めるかどうかはそれぞれの好みによる。そういう食べ物を小さな店で提供する。このスタイルがこれからの時代に合っていると思う。

 ところで、楢製麺の本店はすぐ近くにある超人気のうどん店「慎」だった。旨いうどんの作り方を極め、それをラーメンに応用しているのだろう。すかさず「慎」にも行ったが、こちらも満足できる。行列ができていても美味しかった。

〈楢製麺〉東京都渋谷区代々木2-26-2 第2桑野ビル1F

(201105 第1035回)

 

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