仙石原のすすきを分け入る
箱根の仙石原にすすきの名所があることは知っていたが、久しぶりに行ってビックリした。大勢の人で賑わっていたからだ。
言ってしまえば、ただのすすき野である。あでやかな花を咲かせるわけではない。しかし、広大な丘陵地に一面すすきという光景は、なんとも心を落ち着かせる。とりわけ晩秋のこの季節は穂先が金色にキラキラ光り、風情がある。いっせいに風になびく様子は、日本人の旅情をくすぐる。
あらためて思った。すすきのような地味な植物でも人を呼ぶ力があると。秋に、萩の花とすすきを飾って月を愛でるという風流な習慣が、古くからあったからだろう。
一家に遊女も寝たり萩と月
芭蕉は『奥の細道』でそう詠んだが、言葉にはなくても、そこにすすきがあったことは明らか。言葉にないのに、自ずと情景が浮かんでしまうというところがすごい。おそらく、外国人に上の句を読んで聞かせても、すすきを思い浮かべることはないだろう。
このように濃密な共通理解は他の民族にもあるのだろうか。
日頃、当たり前だと思っていることがじつはそうではないのだと感じるこの頃である。
(201109 第1036回)
本サイトの髙久の連載記事
髙久の著作
お薦めの記事
●「美しい日本のことば」
今回は「月影(つきかげ)」を紹介。月の影であると同時に月の光でもある月影。とりわけ歌に詠まれる月影は、夜空からふりそそぐ月の光を言うのでしょう。続きは……。